(※写真はイメージです/PIXTA)

ある男性は、将来の母親の相続を懸念していました。3つの不動産はいずれも共有名義であり、そのうちのひとつは築古で建て替えが必要。そしてそこには、引きこもりの兄が暮らしており…。どのように着地させればいいのでしょうか。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、事例をもとに解説します。

3つの不動産、いずれも「母+子ども」名義の複雑怪奇

今回の相談者は、50代会社員の伊藤さんです。同居する80代の母親の相続対策について相談したいと、筆者の事務所を訪れました。

 

「母も高齢となり、相続の心配が出てきたのですが、じつは15年前の父の相続で、不動産の権利関係が、ちょっとややこしいことになっていて…」

 

亡くなった伊藤さんの父親は、金融資産のほか、自宅・アパート・貸倉庫の3つの不動産を所有していました。金融資産の大部分は母親が相続しましたが、不動産は、母親と子どもたちの共有にしたといいます。

 

伊藤さんの家族構成と不動産の権利関係は、下記のようになっています。

 

●家族構成

母親(82歳)

長男(58歳)未婚、無職、アパートの一室に居住

二男(54歳)母親と同居、会社員、妻と子ども2人あり…(相談者)

長女(50歳)隣県に在住、会社員、夫と子ども2人あり

 

●不動産の共有状況

自宅:母親+二男

アパート:母親+二男+長女

貸倉庫:母親+長男

 

伊藤さんは、母親の相続が発生したら、不動産の共有が問題になるのではないかと危惧しているほか、築40年近いアパートについても、8世帯のうち2世帯は空室になるなどの問題を抱えており、対処に悩んでいます。

不動産の共有+築古アパート+引きこもりの兄

伊藤さんの資産についての悩みをまとめると、下記のようになります。

 

①相続税がどのくらいかかるのか不安

②母親と妹との3人の共有名義のアパートを、今後どうすべきか悩んでいる

③不動産会社から老朽化したアパートの建て替えを勧められており、迷っている

 

一方で、家族関係についての懸念点もあります。

 

①独身で無職の兄の今後が心配。サポートはするつもりだが、妻子に大変な思いはさせられないと考えている。

②隣県在住の妹は、兄のことも母のことも一切無関心であり、不満をもっている。だが、揉めることで問題が複雑化するのは避けたい。

現状分析と課題

提携先の税理士がまとめたところによると、母親が保有する不動産の持ち分は合計でおよそ7,500万円、預貯金と有価証券が1,500万円。資産総額は合計9,000万円で、相続税額はおよそ500万円弱になるとのこと。

 

不動産:自宅、アパート、貸倉庫

不動産の状況:いずれも母親と子どもの共有

不動産の評価:母親の持ち分の合計で7,500万円

その他の資産:預金1,500万円

母親の資産の合計額:7,500万円+1,500万円=9,000万円

相続税額:500万円弱

 

不動産が共有であることから、相続時には母親の持ち分を共有する子どもに相続させる配慮が必要です。また、築古となったアパートは、今後の維持費を考えると、建て替えも視野に入ってきます。

 

遺産分割の内容は、不動産に価格差があることから平等に分割することはできません。そのため、母親が遺言書を準備し、争いを防ぐ手立てが必須です。

 

高齢になる母親や独身の兄の生活支援は伊藤さんが担当することになるため、寄与分として遺産分割に反映させる配慮もあったほうがいいでしょう。

 

◆相続対策の提案①…築古アパートの対応策

筆者と税理士は、課題となる築古アパートの対策について、いくつか案を出し、比較検討を行いました。

 

①売却…売却したお金で区分マンションを複数室購入し、資産を組み換え

②建て替え…アパートを1棟新築

③建て替え…アパートを2棟新築

④建て替え…戸建て賃貸を4棟新築

⑤建て替え…ガレージハウスを1棟新築

 

◆相続対策の提案②…築古アパートの共有問題への対応策

アパートへの対応を慎重に比較検討した結果、所有割合が多い伊藤さんが、妹の持ち分を買い取ることで共有しない方法が適切であると思われました。

 

そのことから、建て替え時に妹から所有分を買い取ることで共有を解消する方法で検討することになりました。

 

◆相続対策の提案③…母親に遺言書を作成してもらう

相続時にもめないよう、母親には遺言書を作成してもらうことが必須です。

 

同居する伊藤さんは自宅とアパート、兄には家賃収入がある倉庫、妹には預金という内容が現実的な遺産分割だと想定されます。

 

また、遺言書の作成にも着手することになりました。

問題意識を持ち、先手を打つことが重要に

相談者の伊藤さんは長年にわたり母親と同居し、不動産の管理も行ってきました。

 

兄は不動産に関心がなく、妹は他県に暮らしており、母親の相続対策は伊藤さんがイニシアチブをとるしかない状態です。

 

母親は元気ではあるものの、アパートの建て替えを決断することはできず、やはり伊藤さんが働きかけ、動いたことで、相続対策が進み始めました。

 

複数の選択肢から検討した結果、伊藤さんが妹の持ち分を買い取り、母親名義で1棟のアパートを建てるというプランでまとまりました。収益も増え、相続税もかからなくなります。

 

「母が元気なうちに対策ができ、本当によかったです。相続発生後も、兄の生活を守ることができますし、妹も現金でかまわないと納得してくれました」

 

伊藤さんのケースは、問題意識のある子どもが率先して動いたことで、将来の円満な着地点が明確になった例だといえます。

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

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