(※写真はイメージです/PIXTA)

夫を亡くした女性が、遺産分割に頭を痛めていました。法定通りの遺産分割を求めて譲らない長男と、長男に遠慮してもらい、多くを二男に相続させたい女性。しかし、そう考えるに至ったワケがありました。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、事例をもとに解説します。

同い年の健康な夫が、突然…

今回の相談者は、70代の佐藤さんです。3カ月前に亡くなった夫の相続について相談したいと、筆者のもとを訪れました。

 

「夫は私と同い年で、とくに健康にも問題はありませんでした。それなのに、夕食後に急に体調不良を訴えて、そのまま駆け込んだ病院で亡くなりました…」

 

佐藤さんはハンカチで目を押さえました。

 

まさにこれから、相続について家族で相談しようとしていたところだったそうで、当然ですが、遺言書の準備もありません。

「お金は出さないし、同居もしないから」「…えっ!?」

佐藤さんと亡き夫には、50代の息子がふたりいます。長男は東京に家を購入し、妻の母親と同居しています。佐藤さんは二男家族と神奈川県の自宅で同居をしています。

 

15年前、老朽化した自宅を建て替えることを決め、佐藤さん夫婦は息子たちに報告をしたそうです。

 

「当初は、同居なんてまったく頭にありませんでしたし、息子たちにお金を借りるなんて、みじんも思っていませんでした。でも、長男に電話で〈家を建て替えようと思うのよ〉といったら、即座に〈お金は出さないし、同居なんて絶対しないからね〉と…。そんなつもりではなかったのに、もうショックで…」

 

「そのあと二男に電話して、長男のことを愚痴っているうちに、泣いてしまって。そうしたら、すぐ夫婦で飛んできてくれたんです。あれこれ話をするうちに、二男が、〈年を取ったときに心配だから、一緒に暮らそうよ〉〈うちもお金を出すから、もっと広い家にしよう〉といってくれて、それでいまの家が建ったのです」

 

佐藤さんの夫が建物費用を半分出し、残りは二男夫婦がローンを借りて、建物は共有名義となりました。土地は夫、建物が夫が2分の1、二男が4分の1、二男の妻4分の1という割合です。

「弟と等分」を主張し続ける長男に、母親も辟易

佐藤さんの夫の財産は、土地3,000万円、建物2,000万円、預金2,000万円です。相続税の申告は必要ですが、小規模宅地等の特例を適用すれば納税は不要です。そのため相続税の心配は不要でしたが、実は佐藤さんは長男とのトラブルに困っていたのでした。

 

「家を建て替えるといったとき、長男は自分が何をいったのか、忘れてはいないはずですし、二男夫婦と同居することになった経緯だって説明しています。長男がそのあとに家を建てたときも、100万円を贈与していますし、2人の孫の入学にもそれぞれ贈与をしてきました。ですから、今回の相続では遠慮するだろうと思ったのです。ですが…」

 

佐藤さんの長男は、弟と等分にもらうといって譲らないのだといいます。

主張は法的に正しくても、気持ちが…

相続の割合は妻が2分の1、子どもたちが2分の1。法的には、長男と二男はそれぞれ4分の1ずつ相続することになり、長男の主張は間違ってはいません。

 

しかし、佐藤さんとしては、老後を見越して同居を申し出てくれた二男と、家の建て替えのときに暴言を吐き、その後もほとんど顔を出さない長男が等分では、二男夫婦に申し訳ないという気持ちです。

 

しかし、遺言書がない場合、全員での遺産分割協議が必要であるため、長男が同意しないと話は進みません。

二次相続を見越した対策を

筆者の事務所の提携先の税理士が、

 

「息子さんたちを平等にというのなら、佐藤さんがすべてを相続し、子どもたちの相続分をなしとする方法もありますよ」

 

と提案しましたが、

 

「それでは長男が納得しません…」

 

と浮かない表情です。

 

かといって、預金の多くを長男に渡して4分の1とするのは、佐藤さんの今後の生活を考えたとき、不安が残るといいます。かといって、不動産の共有は回避しなければなりません。

 

税理士は頭をひねり、預金を佐藤さんと長男で半分ずつとし、不動産は二次相続の手間を省く意味で二男が相続することで折り合いをつけてみてはどうかと提案しました。

 

佐藤さんは提案に納得された様子で、

 

「二男と一緒に、長男へ提案してみます」

 

というと、事務所をあとにされました。

 

今回のポイント

 

●現実的な分割案を提案することが重要

●不動産の共有は避け、預金を渡す案とする

●遺産分割協議では、妥協点を探ってマイルドな着地を探すことが最優先

●理想通りにいかなくても、こだわり過ぎてはダメ

●二次相続には、佐藤さんの遺言書が不可欠に

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

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