(※写真はイメージです/PIXTA)

2022年7月7日から侮辱罪が厳罰化され、すでに改正法が施行されています。この改正には、2020年5月のテレビ番組出演中の女子プロレスラーがX(旧Twitter)上で誹謗中傷され、命を絶った事件が大きく影響しています。では、厳罰化前の誹謗中傷も、厳罰化後の法定刑が適用となるのでしょうか? Authense法律事務所の弁護士が解説します。

侮辱罪が厳罰化された経緯

侮辱罪が厳罰化された経緯は、インターネット上での誹謗中傷が社会問題となっていたことです。誹謗中傷は、インターネット上で誰もが気軽に発言できるようになる前から存在しました。しかし、匿名での発信が容易なインターネットの登場により、誹謗中傷のハードルが非常に下がってしまったといえるでしょう。なかには単なる「憂さ晴らし」などのために他者を誹謗中傷する人さえ存在するほどです。

 

しかし、誹謗中傷を受ける側が生身の人間であることには変わりありません。特に有名人などのもとには、非常に多数の心ない誹謗中傷が寄せられるケースもあります。

 

こうしたなか、2020年5月、テレビ番組に出演していた女子プロレスラーがX(旧Twitter)上で誹謗中傷を受け、命を絶つ事件が発生してしまいました。この事件では2名の男性が侮辱罪で略式手続で起訴されたものの、科された刑罰は9,000円の科料のみです※1

 

これを受け、侮辱罪の罰則が低すぎるとの指摘がなされ、厳罰化に至りました。また、先ほど解説した名誉毀損罪に該当する場合と法定刑に差がありすぎたことも、厳罰化に至った理由の1つです。

「侮辱罪の厳罰化」による「3つの改正」とは?

侮辱罪の厳罰化では、具体的にどのような改正がなされたのでしょうか? それぞれ解説していきます※2

 

侮辱罪の法定刑が引き上げられた

もっとも重要な変更点は、侮辱罪の法定刑が引き上げられた点でしょう。改正前と改正後の法定刑は、それぞれ次のとおりです。

 

改正前:拘留または科料

改正後:1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料

 

なお、拘留とは1日以上30日未満刑事施設に拘置する刑であり(刑法16条)、科料とは1,000円以上1万円未満の金銭を支払う刑です(刑法17条)。従来は、たとえ侮辱罪に問われても、これら以上の刑罰を科されることはありませんでした。侮辱罪の法定刑は、従来、刑法のなかでもっとも軽いものだったのです。

 

これが軽すぎると指摘され、名誉毀損罪に準ずる内容で法定刑が引き上げられています。これにより、侮辱行為への一定の抑止効果は期待できることでしょう。

 

教唆犯や幇助犯が処罰対象となった

侮辱行為を教唆したり幇助したりした人がいたとしても、従来はこれらの人を罪に問うことはできませんでした。なぜなら、刑法において「拘留又は科料のみに処すべき罪の教唆者及び従犯は、特別の規定がなければ、罰しない」と規定されており(64条)、従来の侮辱罪はこれに該当していたためです。

 

しかし、改正により侮辱罪の法定刑に新たに懲役や禁錮、罰金が加わったことでこの制限規定から外れ、教唆犯や幇助犯を罪に問うことが可能となりました。公訴時効期間が伸長された公訴時効期間とは、犯罪行為が終わった時点から起算して一定の期間が経過すると、その後の起訴が許されなくなる制度です(刑事訴訟法250条)。

 

この公訴時効期間を過ぎてしまうと、もはや侮辱行為をした者を刑法上の罪に問うことはできなくなります。この公訴時効期間はその罪の法定刑によって定められており、一部を抜粋すると次のとおりです。

 

拘留または科料に当たる罪:1年

長期5年未満の懲役もしくは禁錮または罰金に当たる罪:3年

 

侮辱罪の法定刑は従来、前者に該当していたため、公訴時効期間は1年と非常に短期でした。一方、改正後は後者に該当しますので、公訴時効期間が3年へと伸長されています。

 

ただし、プロバイダなどでのログの保存期間は、これとは別の問題です。ログの保存期間はおおむね3ヵ月から6ヵ月程度といわれており、ログが消えてしまうと開示請求などの法的対応が困難となります。そのため、誹謗中傷へはできるだけ早期に対応すべきである点は、従来と変わりありません。

侮辱罪の厳罰化はいつから施行?

侮辱罪の厳罰化の施行日は令和4年(2022年)7月7日であり、すでに施行されています。これ以降に行われた侮辱に対しては、改正後の罰則などが適用されます。

 

過去の誹謗中傷も厳罰化の対象になる?

侮辱罪の法定刑が引き上げられたことで、過去の誹謗中傷も厳罰化の対象になるのでしょうか? 

 

■改正前の誹謗中傷は厳罰化の対象外

改正前に行われた誹謗中傷は、厳罰化の対象とはなりません。改正前にされた誹謗中傷が侮辱罪に問われた場合には、従来の「拘留または科料」の法定刑が適用されることとなります。なぜなら、刑法には「不遡及の原則」があり、法制定や法改正前の事実にまでさかのぼって法を適用することはできないためです。

 

■改正前に確定した判決が変更されるわけではない

改正前にすでに確定した判決が、今回の改正によって引き上げられるわけではありません。つまり、たとえば侮辱罪の法定刑引き上げの契機となった事件で略式起訴された人物の法定刑は、すでに確定した科料9,000円のままであるということです。法定刑が引き上げられたからといって、判決を変更するなどして懲役刑に処することなどはできません。

 

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