資産が少ないからこそ、陥る「厄介な状況」とは?
相続財産5,000万円未満の相続の場合は、基本的に相続税の申告は必要ありません。そのため、相続手続の必要性を知らないまま、なりゆきでやり過ごしてしまうことが多いのです。そのようなパターンが多いのは「実家不動産+一定の預貯金」という資産構成のケースです。
預貯金は死亡前後のタイミングで引き出してしまい、そのまま放置。不動産も亡くなった方の名義のまま放置…というパターンです。
ただし今後は、不動産登記法が改正されたことで、こういった「相続手続の放置」が許されない状況になってきました。令和6年4月1日から施行され、3年間の猶予があるものの、相続登記の放置に罰則が設けられることになったのです。法律により、正当な理由がないのに、不動産の相続を知ってから3年以内に相続登記の申請をしないと、10万円以下の過料が課されることになります。
この法改正により、少額な相続のトラブルが多数発生することが予想されます。
現預金が少ないのに、お金のかかる手続がいっぱい…
なぜ「資産が少ない→厄介な状況」となるのでしょうか?
相続手続は複雑なほど労力がかかり、また、専門家等への費用も発生します。相続財産に対するそれらの費用割合は、資産が少ないほど高くなるため、それを巡る相続人間の諍いが増えると考えられます。
まずここで、よくある「実家不動産+預貯金」という資産構成のケースをもとに、相続手続の流れを追ってみましょう。
- 戸籍を収集して相続人を確定
- 預貯金のある各金融機関から残高証明を取得し、残高を把握
- 不動産と預貯金を確認して相続財産を把握し、どのように相続人で分配するか決め、遺産分割協議書を作成
- 各金融機関での解約手続を行う
- 不動産は司法書士に依頼し、相続登記手続をとる
※2.の残高証明書の取得は、やや不正確でもよい場合には、通帳の残高を確認して、代替することも可能です。
相続人が少なく、複雑でなければ、1.の戸籍収集は一般の方でも可能であり、4.金融機関の解約も、多少の手間はかかるものの、遺産分割協議書があれば一般の方でも対応可能でしょう。
ただ、5.の相続登記は法務局の手続となり、細かく専門性も高いため、ここは司法書士に依頼することになります。その前提として、3.の遺産分割協議書の作成も、あわせて司法書士に依頼するほうがよいのではないかと思います。
遺産分割協議書は、インターネットに出回っているひな形等で作成すると、必要事項の記載がなかったり、記載している内容が曖昧だったりと、そのあとの相続登記手続においてエラーが出てしまうケースがあるからです。
あまり複雑でないケースなら、おおむね一般の方でも対応可能でありますが、1.~5.を司法書士法人・行政書士法人等に依頼すれば、30万~50万円程度の費用が発生することになります。とくに、3.の遺産分割協議の内容で揉めてしまうと、係争のために100万円を下らない弁護士費用が発生し、解決費用のコスト対効果を大きく下げる要因となります。
また、このような「実家+預貯金」のパターンであっても、土地・家屋が1,000万円、預貯金2,000万円といった現金が多い資産構成だと揉めにくく、分割も容易ですが、たいていは逆で、2,000万~3,000万円の実家不動産に対し、預貯金300万~500万円程度といった財産状況が多いのです。これでは、必要な手続費用の捻出はもちろん、遺産分割の自由度も下がり、相続人が不満を募らせることになりがちです。
法律改正により放置もダメ、処理にもお金と手間がかかる…となると、これらの手続を簡易にする生前対策が求められることは明確です。
お金をかけずにできる「生前対策」2つ
ということで、できる限りお金をかけずにできる生前対策をご紹介しましょう。
まず預貯金関係ですが、できる限り1つの口座にまとめておいたほうがよいです。預貯金の預け先がバラバラだと、各金融機関に手続をとらねばならず、非常に手間です。また、相続発生後に相続人が行うより、ご本人が行うほうが解約手続等も簡単です。そのため、預貯金は1つにまとめ、不要な口座は解約する、というのが第一の対策です。
ここで要注意なのは、預貯金の移動履歴はできる限り、通帳などで把握できるように残しておくこと、そして、タンス預金など現金で保有することを避けることです。相続発生後に、使途不明な現金・預貯金が見つかると、紛争の種になってしまいます。
次に「遺言書」です。費用を減らす意味では、自筆証書遺言を作成し、法務局の預り制度を利用するのがよいでしょう。内容のチェックまではしてくれませんが、法務局に預けておくと、遺言書を紛失して相続人が遺言書を把握できない、という状況を回避できます。比較的廉価で自筆証書遺言のチェックサービスを提供しているところもあるので、利用を検討してもいいでしょう。
遺言書のメリットは、被相続人の意向で相続財産の分配先を指定できるため紛争を減らせる点、そして、相続人で紛争が生じてもひとまず遺言書をベースに相続手続を完了できるという点にあります。
近年、金融機関なども本人確認をはじめとする手続が複雑化しています。メリットも多いのですが、相続手続も複雑・煩雑になっている印象です。相続対策の第一歩である「費用を抑える」方法としては、「生前の口座整理」と「法務局の預り制度利用の自筆証書遺言」であると覚えておきましょう。