「老親が自宅に、不用品を溜め込んで…」悩んでいる人、多数
「生前整理と遺品整理」。なんとなく似たようなテイストを感じる2つの言葉ですが、意味は大きく異なります。
「遺品整理」はご本人が亡くなったあと、その方が生前使っていたものを、家族が整理・処分することです。これに対して「生前整理」は、ご自分が生きているうちにご自分で身の回りの品を整理することです。
親が実家に不用品をため込み、その処分に四苦八苦したという話は、子どもが独立し、実家に年老いた親だけで生活しているようなケースでよく起こります。
両親が旅立ち、実家を処分することになった場合、当然ですが、その「残置物」をどうするかという問題が生じます。恐らく大半は処分することになるのでしょうが、子どもの立場としては、生活圏から遠く離れた実家の残置物を整理・処分するのは大変です。長年にわたって蓄積されていることから、その数は膨大で、とてもではありませんが1日2日で片付く分量ではありません。
子どもだけでは対処が困難という場合、専門の業者に依頼して処分してもらうことになりますが、かなりの費用がかかります。家の広さにもよりますが、30坪程度の土地に建てられた戸建て2階建ての残置物を処分するのにかかる費用は、おおよそ30~40万円といったところでしょうか。
当然、このコストは、残された家族が負担することになります。もし余計な出費を避けたいのであれば、親が生きているうちからしっかり話し合い、遺品整理に手間をかけなくてもすむように「生前整理」を進めてもらう必要があります。
生前整理の場合は、基本的に、専門業者に依頼することなく進めるのが一般的です。そのため、コストはモノの処分費用が中心になります。
生前整理がしばしば「頓挫」してしまう理由
ただ生前整理には、遺品整理とはまた違った苦労があるのも事実です。
それは、「なかなか整理・処分が進まない」ということ。
実際に生前整理を始めると、家の中には想像していた以上にたくさんのモノが溢れていることに気付きます。年中引越しを繰り返してきた家族なら、引越しの度に、強制的に身の回り品を整理することになりますが、長くその土地に住み続けている人の場合、どんどんモノが溜まって、かなりの荷物になっているのが一般的です。
その処分に労力と時間がかかるため、途中で嫌になって止めてしまうケースが多いのです。
また、子どもたちにとってはただのガラクタでも、高齢の両親にとっては掛け替えのない想い出が詰まった品々だったりすることもあります。そうなると、やはり処分が進まないといったことになりがちです。
結果、捨てるに捨てられず…という状態にはまり込み、まったく生前整理が進まなくなってしまうのです。
そのとき、とくに子どもたちが注意すべきなのが「さっさと片づけて!」といって追い込むことです。自分たちにとって大事なものではないからといって、親の気持ちを無視するような態度で、一方的な言葉をぶつけると、言われた親のほうは「あんたたちになにがわかるのよ!」といって心を閉ざしてしまいます。
一度そうなれば、そこから先に作業を勧めるのは困難です。また、せっかく親が子どもに相談しようと思っても「いいから捨ててよ」などと突き放せば「相談しても無駄だ」と思ってしまい、ますます事が進まなくなります。
親の気持ちに寄り添い、時間をかけて気長に付き合う
生前整理をスムーズに進めるには、親子のコミュニケーションをしっかり取ることが大切です。そして、「実家にある品々は、すべて自分の両親の歴史なのだ」と理解・尊重したうえで、両親と向き合うようにしましょう。
もし両親が処分を迷っているモノがあったら、そのモノに対する想い出を共有してください。せっかくの機会ですから、モノに込められている想いに耳を傾けましょう。そのうえで、「じゃあ、これは取っておこう」「誰かに形見分けのつもりでもらってもらおう」などと決めていけばいいのです。
ただし、それをひとつひとつ実行するためには、かなりの時間と根気を必要とします。だからこそ、生前整理をするのであれば、親がまだ元気なうちに子どもを交えて話し合い、進めることが肝心です。
生前整理は、確かに手間がかかる工程かもしれません。しかし、面倒だからといって子どもたちが放置していると、高齢となった両親がモノにあふれた室内で転倒し、骨折から寝たきりに…という、後悔してもしきれない事故に繋がる可能性もあるのです。
生前整理には、親とのコミュニケーションを図るというメリットだけでなく、高齢となった親を身の回りの危険から守るという意味もあります。自宅内の不要なモノが少なくなれば、生活しやすく、掃除も簡単になります。つまり、高齢者のクオリティ・オブ・ライフを高めることになるのです。
なるべく早い段階で、子どもから親へ「生前整理」の必要性を共有し、お互いに上手にコミュニケーションをはかりながら実行することをお勧めします。