「もう亡くなっているのでは…」親族の決断で死亡者扱いにした、その後
東日本大震災から12年半が経過しました。警察庁によると、地震や津波の被害によって亡くなった方は1万5,900人、行方不明の方は2,523人。いまなおこれだけ多くの方の行方が分からないという現実に胸が痛みます。
一方でまた、自然災害を主因にするもの以外にも、日本にはかなりの数の行方不明の方がいます。2022年の行方不明者届出受理状況を見ると、男性が5万4,259人、女性が3万651人で、合計8万4,910人となっています。
基本的に、行方不明者の方は生存扱いになります。ですが、ご家族が「もう亡くなっているのでは…」と判断した場合、家庭裁判所に「失踪宣告」を申し入れることができます。そして失踪宣告が行われると、その時点で行方不明者は法律上、死亡者扱いになります。
ただし、普通失踪の場合で7年間、危難失踪の場合で1年間は、失踪宣告を申し立てることはできない決まりがあります。
ちなみに危難失踪とは、戦争や船舶の遭難、災害などで生死が不明な状態の人を指しています。そして、それ以外の失踪を普通失踪と定義しています。
一般的に家族に失踪者が出て生死が不明である場合、失踪宣告をもって葬儀を執り行うのが一般的です。
ただし、ご遺体がないという点が問題です。その状態で、どうやって葬儀を行えばいいのか、迷われるご遺族の方も多いのではないでしょうか。
この場合、行方不明になった方が日常生活で使っていたもの、たとえば櫛や洋服等を祭壇にお供えして、葬儀を執り行うことになります。
ご遺体はあるが…医師や司法の判断で「解剖」に回るとどうなる?
また、ご遺体が存在しているケースでも、そのままご遺体の安置施設に送り葬儀を執り行うという通常の流れ以外に、事件や事故といった経緯で亡くなった場合、あるいは、医学的な研究・調査のため、解剖に回されることもあります。
解剖の種類は「病理解剖」「行政解剖」「司法解剖」の3つに大別できます。
①病理解剖
病気で亡くなった人を対象に、死因を特定する、あるいは診断の妥当性や治療の効果を確認するなど、さまざまな目的で行われますが、基本的には、医学の発展に寄与するため、ご遺体を役立ててもらうというものです。
通常、臨床医がご遺族の承諾を得たうえで、病理医に依頼して、病院で解剖が行われます。そして、その結果は報告書としてまとめられ、医師の間で情報共有されます。
また、病理解剖を行うに際して、臨床医から遺族に承諾を得るのではなく、遺族側、あるいは余命いくばくもない人が自ら、病理解剖に役立ててほしいという理由で、病院にご遺体を進呈するというケースもあります。これを「献体」といいます。
ただ、献体は現在、ほぼどこの大学病院でも受け入れていません。理由は、過去に献体の登録者が殺到したことにあります。希望者殺到の背景には、解剖後、ご遺体を大学病院のほうで火葬するという情報が周知されたことがあります。献体申出者の中には「葬儀・火葬代が不要になる」と、少々不純な考えを抱く人もあり、病院側の想定を超えて少なからず現れてしまったということです。
②行政解剖
たとえば、ひとり暮らしの高齢者が自宅で転倒し、打ちどころが悪く亡くなった場合、第三者からは事件性の有無がわからないため「変死」という扱いになります。
このように、ご遺体が「変死体」として発見された場合、監察医による「行政解剖」がおこなわれ、事件性の有無を判断することになります。なお、行政解剖は遺族の意思とは関係なく、必要と思われれば行政側の判断で行うことができます。
現在、監察医が置かれているのは、東京23区のほか、大阪市、横浜市、名古屋市、神戸市に限られます。これらの地域以外の場合は、遺族の承諾を得たうえで法医学者によって同様の解剖が行われることもありますが、現在は「死因・身元調査法」のもと、警察署長が必要と判断した場合、遺族の承諾なしにご遺体の解剖が行えるようになっています。
この行政解剖によって事件性があると判断された場合、司法解剖に移行します。
③司法解剖
司法解剖の必要性の有無は、捜査を担当する検察や警察が判断します。仮に遺族が司法解剖を望んだとしても、警察が必要なしと判断した場合には司法解剖は行われません。逆に、警察が司法解剖の必要性があるとして、裁判所から「鑑定処分許可状」を取り付けた場合は、いくら遺族が反対しても、司法解剖に回されることになります。
司法解剖の場合は、事件解決に向けた捜査過程のなかで、適切なタイミングにより遺族に返されたり火葬に回されたりするなどの流れになります。