もし海外で突然死してしまったら、どんな手続きが必要になるのか
人口動態統計の数字によると、2020年において日本で亡くなった外国人の数は7839人、逆に外国で亡くなった日本人の数は1389人を数えます。日本人が海外で不慮の事故に遭って亡くなる。あるいは、日本を訪れた外国人が急な病気で亡くなるというのは、身近ではないように思えて現実として起きています。
日本人が日本国内で亡くなった場合は、通常の手続きに則って葬儀を行い、火葬、納骨へと…という流れになりますが、日本人が旅行先や出張先の海外で亡くなった場合、あるいは、外国人が日本国内で亡くなった場合は、遺体を母国に送らなければならないことから、各国の大使館などと連携して手続きを取ることになります。
まず日本人が外国で客死した場合、どうやって日本にその遺体を戻せばいいのでしょうか。基本的には、米国なら米国の、中国なら中国の日本大使館および総領事館といった在外公館に連絡し、段取りの相談や、遺体を日本に搬送するための必要書類を整備します。
日本に遺体を搬送するのに必要な書類は以下のものです。
・亡くなった人のパスポート
・現地で発行された死亡診断書、もしくは死体検案書
・在外公館発行の遺体証明書
・葬儀業者によるエンバーミング証明書
遺族や関係者は、現地に到着後、これらの書類を取り揃えることになります。
ちなみに在外公館は、各種書類を取り揃えることまでは手伝ってくれますが、遺族が現地に行くための航空券、宿泊の手続きまでは手伝ってくれません。これはあくまでも遺族が自分たちで手続きする必要があります。
なお、航空券ですが、現地で手続きの遅延などのトラブルに巻き込まれるケースも十分に考えられます。したがって、復路の航空券については、いつでも変更可能なものにしておくほうがよいでしょう。
以上の書類のうち、死亡診断書などは現地発行のものなので、当然のことですが日本語ではありません。したがって、現地の言語で書かれた死亡診断書を日本語訳したうえで原本を添付し、日本国内で死亡届を提出する必要があります。
またエンバーミング証明書を取るにあたって、国によっては別途必要とされる書類があります。たとえばフランスから遺体を空輸する際には、故人の戸籍謄本(戸籍抄本)が必要ですし、中国の場合は遺体出境許可証が必要です。
一般の日本人が海外の諸手続きをひとりでこなすことは困難ですから、基本的に、わからない点はすべて在外公館に相談することをおすすめします。費用については保険会社や葬儀社と連携して段取りを進めるようにしましょう。本国送還(Repatriation)・海外搬送・エンバーミングに実績のある葬儀会社に依頼するとスムーズに進みます。
日常生活で聞きなれない「エンバーミング」とは?
ここでエンバーミングについて少し詳しく説明しておきましょう。
遺体は航空貨物として空輸することになりますが、冷却に用いるドライアイスは、二酸化炭素が発生するため大量に飛行機に乗せることはできません。そのため、納棺する前に現地で「エンバーミング(防腐処理)」を施すことになります。これは遺体の消毒や殺菌を行い、感染症から守るためのもので、検疫という観点からも必要な処置になります。
エンバーミングを行うときは、専門家であるエンバーマーが遺体の消毒や殺菌を行い、血液などの体液を薬液により押し出します。こうすることによって、ドライアイスや保冷庫なしでも遺体を長期間、常温で保存できるようになるのです。エンバーミングにかかる費用は15~25万円程度だとされていますが、基本的に海外旅行保険などで賄える範囲であるため、費用面で過剰な心配をする必要はないといえます。
エンバーミングができない場合、難しい判断を迫られることも
ただし、損傷が酷い場合は、エンバーミングを施すことができません。とくに血管が傷ついている場合は保全液の注入がままならないのです。
このような場合は遺体を現地で火葬するか、あるいは現地で埋葬するか、という方法も視野に入れておかなければなりませんが、それにはさまざまな手続きが必要になります。また、国や地域によっては火葬を認めていないところもあります。
火葬すら認められない場合は、冷凍搬送するという方法もありますが、この方法は非常に高額な費用がかかります。
いずれにしろ、在外公館と相談してベターな方法を選ぶことになります。
逆に、外国人が日本国内で亡くなった場合の手続きも同じです。海外各国の在日大使館から連絡を受け、日本国内の葬儀社が遺体を引き取り、搬送先となる海外の空港、受け入れ先の確認、大使館への連絡、空輸便の手続きなどを行います。
そして遺体にエンバーミング処理を施したうえで各種事務手続きを行い、空港に運んで、遺体が無事に離陸するまでを見守ることになります。