公的年金の額は受給開始のタイミングで増減する
まず、「繰り下げみなし増額制度」について説明する前提として、公的年金の受給開始のタイミングを変える制度、「繰り上げ受給」と「繰り下げ受給」について知っておく必要があります。
公的年金の受給開始は原則として65歳からです。60歳まで保険料を払い込んで、65歳になってから年金を受給するというわけです。
「繰り上げ受給」は受給開始のタイミングを60歳まで早めることができる制度、「繰り上げ受給」は75歳まで遅らせることができる制度です。
いずれも、1ヵ月単位で設定できます。
「繰り上げ受給」は年金を早く受給開始できる代わりに年金額が減額されます。また、サラリーマン(会社員・公務員)は年金制度が「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」の「2階建て」になっていますが、片方だけ繰り上げることはできず、両方繰り上げとなります。
これに対し、繰り下げ受給は、受給開始が遅くなる代わりに年金額増額されます。また、「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」を別々に繰り下げることができます。
なお、1966年以前に生まれた方は、60歳~64歳の間に「特別給付の老齢厚生年金」(特老厚)を受給できることがあります。しかし、こちらは、旧制度から現行制度に移行するうえでの経過措置にすぎないので、受給開始年齢を動かすことはできません。
特別給付の老齢厚生年金については詳しくは2023年5月10日の記事「『もらい忘れ』は損!年金受給開始の『65歳』より前に受け取れる『特別の年金』とは」をご覧ください
寿命により「損益分岐点」が異なる
では、「繰り上げ受給」または「繰り下げ受給」を選んだ場合、それぞれの損益分岐点はいつになるでしょうか。
それは結局、年金を受け取る期間の長さ、つまり、何歳まで生きるかによって異なります。未来のことなど誰にもわかりませんが、一応の目安にはなります。
65歳受給開始の場合の年金額を150万円として、試算してみましょう。
◆繰り上げ受給(60歳受給開始)を選んだ場合の損益分岐点
まず、繰り上げ受給を選び60歳から受給開始した場合について計算しましょう。
繰り上げ受給を選んだ場合、受給額の計算式は以下の通りです。
【繰り上げ受給した場合の受給額の計算式】
年金額-(年金額×0.4%×繰り上げた月数)
したがって、65歳受給開始の年金額が150万円のところ、60歳から繰り上げ受給した場合の年金額は、
となります。
繰り上げ受給せず、65歳から受給開始した場合と比べると、以下の通り、80歳11ヵ月の段階で、逆転されます。
【80歳11ヵ月時点での受給総額】
・60歳から繰り上げ受給(年114万円×受給期間251ヵ月)⇒2,384.5万円
・65歳受給開始(年150万円×受給期間191ヵ月)⇒2,387.5万円
したがって、60歳から繰り上げ受給開始した場合は、損益分岐点は80歳11ヵ月ということになります。80歳10ヶ月までに亡くなれば、トータルでの受給金額で得をしたことになります。
◆繰り下げ受給(75歳受給開始)を選んだ場合の損益分岐点
続いて、「繰り下げ受給75歳から受給開始にした場合について計算してみましょう。
繰り下げ受給を選んだ場合、受給額の計算式は以下の通りです。
【繰り下げ受給した場合の受給額の計算式】
年金額+(年金額×0.7%×繰り下げた月数)
したがって、65歳受給開始の年金額が150万円のところ、受給開始を75歳まで繰り下げ受給した場合の年金額は、
となります。
65歳から受給開始した場合と比べると、以下の通り、86歳11ヵ月で逆転します。
【86歳11ヵ月時点での受給総額】
・75歳まで受給開始繰り下げ(年276万円×受給期間143ヵ月)⇒3,289万円
・65歳受給開始(年150万円×受給期間263ヵ月)⇒3,287.5万円
したがって、75歳まで受給開始を繰り下げた場合は、損益分岐点は86歳11ヵ月ということになります。87歳まで生きなければ、トータルでの受給金額で損するということになります。
しかし、何歳まで生きるかは、亡くなるまでわかりません。したがって、以上はあくまで参考程度のものととらえておく必要があります。
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