(※写真はイメージです/PIXTA)

経済基盤の脆弱化や晩婚化を背景に、子どものいない夫婦が増加している。多くの家庭では、老後資金の問題が懸念されているが、それ以前に「早くにパートナーを失う」という、万一のケースを想定したことはあるだろうか。52歳大卒サラリーマンに先立たれた、子のない妻のケースを事例に考えていく。

子どものいない夫婦、10組に1組へ

厚生労働省『令和3年人口動態』によると、平均初婚年齢は男性31.0歳、女性29.5歳。そして、第1子出生時の母の平均年齢は30.9歳だった。初婚年齢と第1子出生時の母の年齢は上昇傾向にあり、子どもをもたない夫婦も増加傾向だといえる。

 

国立社会保障・人口問題研究所『第16回出生動向基本調査』(2021年)によると、妻45~49歳夫婦の子どもの数は、「2人」が最多で52.8%、「1人」が19.4%、「3人」が16.0%、そして「0人」が9.9%となっている。40代後半を過ぎてから第1子が誕生する可能性は低いため、夫婦10組に1組は「子どもがいない」という状況だといえる。

 

妻45~49歳というと、ちょうど氷河期世代にあたる。当時、女性の大学進学率は40%後半(短大含む)。有効求人倍率は1.0%を下回り、大卒者でも正社員で就職できず、非正規社員としてキャリアをスタートした人たちも多かった。

 

もちろん、女性だけではなく、男性も同様だ。低すぎる給料のために結婚をためらい、結婚が遅れ、結局子どももあきらめた、という夫婦はかなりいるのではないかと推察される。

子もなく、キャリアもなく…妻の底知れぬ不安

結婚したものの、非正規社員としてのキャリアしかない女性は、やはり将来に不安を抱えている。万一、夫になにかあったら――。

 

4歳年上の夫がいる48歳の女性は、今年で結婚20年だという。子どもはいない。大学は卒業したものの、就職が決まらなかったため、親元留まり、アルバイトをしていた。知人の紹介で出会った夫と結婚して以降は、パートもやめ、ほとんど夫の収入だけを頼りに生活してきたという。

 

「フルタイムで働き、ひとりで生きていくという生活は想像できません」

 

家計の担い手が亡くなったとき、残された遺族のために「遺族年金」が支給される。遺族年金には、大きく、国民年金に由来する「遺族基礎年金」と厚生年金に由来する「遺族厚生年金」がある。

 

しかし遺族基礎年金は18歳未満、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の子どもを支えることを目的としており、受給対象者は子どものいる配偶者か子どもだ。つまり「子どものいない夫婦」は対象ではないのだ。

 

遺族厚生年金は、以下①~⑥で最も優先順位の高い人が受け取ることができる。子どものいない夫婦で、会社員だったパートナーを亡くしたときには、遺族年金受給の対象となる。

 

優先順位〈高〉

 

●子のいる妻

 

●子(18歳になった年度の3月31日までにある子、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある子)

 

●子のいる55歳以上の夫(受給開始は60歳。ただし遺族基礎年金をあわせて受給できる場合に限り、55歳から60歳の間であっても受給できる)


優先順位〈中-①〉

 

●子のない妻(子のない30歳未満の妻は、5年間のみ受給)

 

●子のない55歳以上の夫


優先順位〈中-②〉

 

●55歳以上の父母(受給開始は60歳から)


優先順位〈中-③〉

 

●孫(18歳になった年度の3月31日までにある孫、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある孫)


優先順位〈低〉

 

●55歳以上の祖父母(受給開始は60歳から)


※子のいる妻または子のいる55歳以上の夫が遺族厚生年金を受け取っている間は、子には遺族厚生年金は支給されない

 

遺族厚生年金の年金額は、死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額だ。また、報酬比例部分の計算において、厚生年金の被保険者期間が300月(25年)未満の場合は、300月とみなして計算する。仮に前出の女性の夫に、万が一のことが起きたら…。

 

もし女性の夫が、大学卒業以来、平均的な給与を手にしてきたサラリーマンだった場合、存命期間中の平均標準報酬額は41万円となり、この段階で65歳から受け取れる厚生年金は月7万1,910円。つまり妻が遺族厚生年金として受け取れるのは5.4万円程度だと考えられる。

 

夫が亡くなったとき、40歳以上65歳未満で、生計を同じくしている子がいない場合、40歳から65歳になるまでの間、59万6,300円、月5万円ほどの「中高齢寡婦加算」がもらえる。それでも月10万円程度。これでは、とてもではないが普通に生活することは不可能ではないか。保険や貯蓄などがあればいいのだが、もしそのような備えをしていなかったら…。

 

「フルタイムで働き、ひとりで生きていくという生活は想像できません」

 

といっていた上記の女性でも、生活を支える夫が亡くなったら、いやおうなしに働かざるを得なくなるだろう。やはり日頃より「万一のときには、自分が働く」「自分の生活は、自分で守る」という気構えが必要だといえるだろう。

 

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