体の中で静かに進行する「老化」
若い頃は新陳代謝が活発なため、食べたものはエネルギーに換えられますので、偏食をしたり、よほどの大食漢でない限り脂肪が蓄積することはそれほど多くありません。しかし、加齢に伴って体の代謝機能も衰えてきますから、日常的に運動をする習慣がない人は、若い頃と同じ食生活を続けていれば太るのは当然です。そう考えると、生活習慣病にも老化が関係しているといえます。
老化というと、皆さんは白髪が増えたとか、老眼になった、シワやシミできた、皮膚がたるんできた、体力が低下して徹夜ができなくなったというように、見えるところで実感しています。
しかし、体の中でも同じように老化は進んでいるのです。むしろ体内の老化の方が、本人の知らないところで静かに進行しているだけに厄介といえます。
では、なぜ人は老いるのでしょう。老化には遺伝子が関わっており、長寿遺伝子といわれるものも見つかってはいますが、問題なのはむしろ「環境」ではないかと私は考えています。
例えば、今注目されている遺伝子検査で、将来がんになる確率が高いという診断結果が出たとしましょう。だからといって、その人たちが必ずがんを発症するとは限りません。あくまで確率ですから、他の人よりリスクが高いのであれば、禁煙をしたり偏食をしないようにしたり、適度に運動をするなど生活習慣を改善してリスクを減らしていけば、がんを予防することはできるはずです。
また、同じ生年月日の人は同じスピードで年齢を重ねていきますが、同窓会などで再会すると、昔とちっとも変わっていなくて若々しい人もいれば、老け込んで誰だかわからない人もいます。大柄の人や小柄な人がいるように成長のスピードには個人差があり、老化のスピードにも個人差があるということです。
その老化のスピードを左右しているのが、環境ではないかと思うのです。
ひと口に環境といっても、生活環境から自然環境、職場環境、人間関係、食習慣、運動と幅広く、皆さんを取り巻くすべてのものが含まれます。これらが複雑に絡み合ってストレスとなり、老化のスピードを速めたり遅くしたりして、個人差が現れると考えられます。
体の「サビつき」が不調を引き起こす!?
こうして、私たちはさまざまなストレスにさらされながら生きているわけで、これらのストレスによって体に生じる最も大きなダメージが「酸化」です。
酸化とは、物質が酸素と結びついて起こる化学反応のことをいいます。りんごを切ったまま放置しておくと断面が茶色く変色しますが、これも酸化が原因です。また、物が燃えたり、鉄がサビついてボロボロになるのも、酸素が結びついて起こる酸化現象です。
それと同じことが、実は私たちの体内でも起こっているのです。体のさまざまな組織が酸化する、つまりサビつくことで老化が進んだり、体調不良を起こしたりしています。
例えば、脳の細胞がサビつけば脳の機能が衰えて物忘れをするようになったり、認知症を引き起こしたりします。血管がサビつけば硬くなり、いわゆる動脈硬化を起こすようになります。動脈硬化が進むと血栓ができて血管を詰まらせ高血圧を起こすばかりか、血栓がはがれて心臓に流れていけば心筋梗塞を、脳に流れていけば脳梗塞を起こし、また血管が破れると脳出血を起こす危険があります。
さらに、骨も例外ではありません。骨を構成している組織がサビつけば、骨がもろくなって骨折しやすくなる上、体を支えきれなくなって寝たきりになる可能性があります。寝たきりになれば、認知症になるリスクも高まります。
このように、体の酸化は全身の至る所で起こるため、あらゆる病気の原因になっているのです。したがって、老化とは体をサビつかせることと言い換えても良いのではないでしょうか。