好感を持ってもらえるメールを書きたいです
好ましい印象は、何から生まれるのでしょう。メールで好感を持ってもらうというと、どんな言葉を使うか、どんな文章を書くかに目が向きますが、最低限のことすらできないのに言葉だけ洗練されていたら、違和感があるばかりでなく二枚舌のように映るでしょう。
最近では、会う前にメールでコミュニケーションをとることが増えました。やりとりを何度かしていると「この人は仕事がしやすい」「この人は噛み合わない」のような印象を持つようになります。メールが第一印象を作ることも珍しくありません。
よい印象を作るのは「高い仕事の質」と「相手への気遣い」です。この2つがそろうと、良好な関係を築けて、仕事が円滑になります。好感を与えるのは次のような要素です。
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<好感を与える要素>
①相手の要求に応えるメールを書く
②期限を前倒しして対応する
③トラブルが起こる前に相談する
④プラスアルファの提案を行って納得感を高める
⑤ビジネスパーソンとしてTPOに合った言葉を使う
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仕事の質を満たせるようになったら、気遣いを盛り込みましょう。気遣いのテンプレートが欲しい人もいるでしょうが、好感は、相手の状態を見て言葉を選ぶことから生まれます。
たとえば、残業した相手に、どのような気遣いができますか。
(1)遅くまでお疲れ様でした。
(2)体調が悪い中ご対応いただき、誠にありがとうございます。
(3)体調は回復されましたか。
労いたい場合は、(1)のような時間や疲れに触れた対応が望ましいでしょう。相手も気遣いに対する感謝を伝えてくるかもしれません。一方、体調が悪い中で無理をしたと聞いて(1)のような1文だと違和感が生まれます。相手の体調を気遣う(2)か(3)が正解です。
ただし、(2)は体調がいま(ここ数日間)悪いと聞いている場合に書くべき言葉です。(3)は数日経ってから使う文面のため、体調が悪い当日に書くと違和感が生まれます。
言葉が場面に合っていなければ、気遣ったふりをして心がないとみなされるかもしれません。場面を問わない鉄板フレーズはありません。
冷たい印象を与えない文章が書きたいです
どうせメールを書くなら効果的に使いたい、ただ情報を伝えるだけでなく好印象を与えたいと思うでしょう。印象のよいメールは、用件が伝わるだけでなく、心遣いもあります。逆に、用件だけで終わっているメールは「冷たい」という印象を与えかねません。
「冷たい」と感じるメールの特徴を見てみましょう。
①機械的な対応をする
②いつも同じ言い回しをする
③聞かれたことにだけ答える
用件が伝わるだけは足りないことがわかります。メールで行うのはコミュニケーションなので、対面や電話と同じように、感情に寄り添った温もりが求められます。メールは相手の顔が見えない、声が聞こえない手段ですが、メールの先に人の気配を感じなければ機械を相手にしているようなものです。
メールを送ってもらったことに対するお礼、対応してもらったことに対するお礼など、仕事ではお礼する場面がたくさんあります。メールに温かさを出したいときは、お礼を入れてみましょう。「ありがとう」と言われて気分を害する人はいません。「ありがとう」は冷たいメールに温もりを与えるでしょう。
お礼もパターンがいつも同じだと「機械的だ」と感じます。それが続くと「冷たい」という印象になります。場面に応じて、お礼だけでも5パターンくらい持っておくとよいでしょう。
感じたことを自分の言葉で表現できると、血の通ったメールになります。問い合わせをする人は「不安」「不快」などの感情を抱えていることがあります。たとえば、セミナー申し込みの受け付けが完了しているのか不安になって問い合わせたとき、次のような返事がきたら、どうでしょうか。
(1)すでにお席は確保できております。
(2)すでにお席は確保できておりますので、ご安心ください。
(1)は知りたいことに答えてもらえていますが、(2)のほうが安心できるのではないでしょうか。安心したい相手には「安心してください」と伝える。特別なことでなくても、書くべき言葉はすでに相手が教えてくれています。
メールで対応をするときに聞かれたことしか答えない人がいます。値段を聞かれたら値段を、在庫数を聞かれたら在庫数をというようなコミュニーションは、将来的にAIにとって代わられるでしょう。人が介在するのですから、相手の状況を予測したり、心に寄り添ったり、そのようなコミュニケーションをとりたいものです。機械的な言葉に心は通いません。
親身になってくれる人だと思われるメールを書きたいです
冷たい印象を与えないのが最低限のコミュニケーションならば、その一歩先を行くのが親身になってくれるメールでしょう。親身になってコミュニケーションをとるならば、相手の心情や状況を理解して、それに合った対応をする必要があります。相手のことを知るためには興味や関心を持つことです。
たとえば「コピー機が壊れて困っています」という問い合わせがあったら、どこまで相手のことを考えられるでしょうか。
・急な印刷に対応できず困っているかも
・ほかの社員から壊れたことを責められているかも
・いつ修理にくるのか心配しているかも
・どのくらいコストがかかるか気にしているかも
・コピー機の欠陥を疑っているかも
正解は相手にしかわかりません。答えを探すのではなく、相手の置かれている状況を踏まえて、思いや考えを想像することが大切です。ちょっとした変化や言葉の節々から推測ができます。そして「急な印刷に対応できず困っているのでは」という点に当たりがつけば、次のような一言を伝えられるでしょう。
『コピー機の故障により大変ご迷惑をおかけしております。本日中に修理担当者が貴社へ伺いますが、もし大量の印刷が必要でしたら、弊社で対応することも可能です。』
先回りして問題の解決策を提示されたら「理解してくれている」「頼りになる」と感じるでしょう。相手に誠実な関心を持っていれば、過去のやりとりからもヒントが見つかります。たとえば過去に「月末に大量印刷する」と聞いていたなら、次のようにも言い換えられるでしょう。
『1年ほど前、月末は大量に印刷をする必要があるとお聞きしました。もし大量の印刷が必要でしたら、弊社で対応することも可能です。遠慮なくお知らせください。』
過去のやりとりを引き合いに出して話を組み立てると「本当によく覚えている」と感心されるかもしれません。メールの履歴を検索すれば、さまざまなやりとりが見つかります。目先の対応に追われていると、親身になった対応ができなくなります。親身になるには、考えたり、準備したり、時間もかかるでしょう。しかし、それだけの手間をかける価値があるのです。
平野 友朗
一般社団法人日本ビジネスメール協会 代表理事
株式会社アイ・コミュニケーション 代表取締役
1974年、北海道生まれ。筑波大学人間学類で認知心理学を専攻。広告代理店勤務を経て、独立。2004年、アイ・コミュニケーションを設立。2013年、一般社団法人日本ビジネスメール協会を設立。ビジネスメール教育の専門家。メールのスキル向上指導、組織のメールのルール策定、メールコミュニケーションの効率化や時間短縮による業務改善など、支援実績は多岐にわたる。
著書は『そのまま使える! ビジネスメール文例大全』(ナツメ社)、『仕事ができる人は実践している! ビジネスメール最速時短術』(日経BP)など、本書を含め35冊。