ギリシャ債務危機と米債務問題との違い
他方で、米国債は、米国政府にとっての自国通貨建ての債務(内国債)であり、中央銀行である米連邦準備制度理事会(FRB)は事実上無制限に(米国債の償還に必要な)ドルを発行することができます。
自国通貨建ての債務は、①政府が借り換えのための国債を発行し、②これを中央銀行が買い取れば(=貨幣を発行して償還に充てれば)、名目上デフォルトすることは決してありません。
2009~11年のギリシャ債務危機は、上記②(中央銀行による貨幣の発行)ができないケースでした。
ギリシャ国債は自国通貨(ユーロ)建てであったものの、金融政策はユーロ圏全体の物価安定・貨幣価値の安定に制約されるために、ギリシャ中銀は、ユーロを自由に発行してギリシャ国債を買い支えることができませんでした。
ユーロ圏加盟国は、各国の中銀が裁量的に貨幣を発行することができませんから、「事実上、外貨建ての債務を発行しているのと同じ」といわれます※。ですから、ユーロ加盟後のギリシャを例にとって「自国通貨建ての債務でもデフォルトする場合がある」というのは必ずしも適切な主張ではありません。
※ ただし、たとえば、最近ではイタリア国債の買い手はほぼほぼイタリア中銀であり、共通通貨ユーロの安定性は失われつつあるようにみえます。
対照的に、今回の米国の債務上限は、上記①(政府による国債の発行)ができないケースです。
ただし、中央銀行であるFRBは事実上無制限に(米国債の償還に必要な)ドルを発行できますから、債務上限のために米国債を発行することはできないものの、「なにがなんでも元利金を支払いたい」ということであれば、たとえば、米国政府が保有する不動産などを担保に、米連邦準備制度理事会(FRB)が財務省に資金を融通し、財務省がその資金を償還に充てることもできなくはありません。あるいは、ごく短期的に増税を実施するかです。
いずれの手段も法的な制約がありますし、事態の根本的な解決にはなりませんが、ポイントは、米国の信用力がなくなったわけではなく、あくまで、国内での法律上の制約によるものということです。