(画像はイメージです/PIXTA)

宅地建物取引業者に不動産取引を自由におこなわせると、知識の乏しい一般消費者に不利な取引となるリスクがあります。そのため、宅地建物取引の公正を確保し、一般消費者の利益を保護するため、宅地建物取引業者を規制しているのが「宅地建物取引業法」であり、それに関連する国家資格が「宅地建物取引士」です。自身もFP資格を持つ、公認会計士・税理士の岸田康雄氏が解説します。

「宅地建物取引業法」の趣旨と目的

不動産の売買や賃貸借には、専門的な知識が必要となります。不動産取引は、物件の調査から契約、引渡しに至るまで広範囲な知識を必要とするため、不動産の専門家である宅地建物取引業者に依頼せざるを得ません。媒介(仲介)または代理を依頼することになるでしょう。

 

そこで、適切な宅建業者を選定するため、宅地建物取引業者名簿を確認することが必要となります。この名簿は、国土交通省土地・建設産業局不動産業課や各都道府県の不動産業指導係で閲覧することができ、過去の営業成績や代表者・専任の取引士の氏名、過去の行政処分の有無などを調べることができます。

 

★宅地建物取引業についてはこちらをチェック

【FP3級】宅地建物取引業とは?宅建業免許と媒介契約を学ぶ

宅地建物取引業は、どんな仕事をする?

(1)宅地建物取引業の免許

宅地建物取引業の免許を受けて、宅地建物取引業を営む人のことを「宅地建物取引業者」といいます。一般に、宅建業を営む人、宅建業者と呼ばれています。

 

宅建業の免許には、国土交通大臣免許と都道府県知事免許の2種類があります。2つ以上の都道府県内に事務所を設置する場合は、国土交通大臣の免許を受け、1つの都道府県内にのみ事務所を設置する場合は、都道府県知事の免許を受けることになります。

 

(2)宅地建物取引業者が取り扱う取引

一般に「不動産業」は、宅建業のほかに、不動産の開発や分譲、不動産管理や、自ら所有する賃貸不動産や駐車場の経営があります。

 

[図表1]不動産業と宅建業の関係

 

免許を受けることが必要な宅建業とは、具体的に次の取引をおこなうことをいいます。

 

①自ら所有する不動産を、自ら売買・交換すること

②他人が所有する不動産の売買・交換や賃貸の媒介・代理をおこなうこと

 

よって、自ら所有する不動産を自ら賃貸することは、宅建業の取引ではありません。つまり、賃貸マンションの所有者が、そのマンションの賃貸経営をおこなう場合、宅建業の免許は必要ありません。

 

[図表2]宅建業免許が必要な取引と不要な取引

「宅地建物取引士」は国家資格

国家試験に合格した資格者を宅地建物取引士といいます。一般に宅建士と呼ばれます。宅建業者は、1つの事務所において、業務従事者の5人につき1人以上の宅建士を置かなければなりません。

宅建業者が客と締結する「媒介契約」には、3種類ある

宅建業者は、お客様から不動産の売買や賃貸借の媒介の依頼を受けたとき、媒介契約を締結します。ちなみに、媒介と仲介は同じ意味です。仲介契約と呼ぶことが多いかもしれません。

 

媒介契約は「一般媒介契約」「専任媒介契約」「専属専任媒介契約」の3つに分けられます。

 

一般媒介契約:お客様が、他の宅建業者に重ねて媒介を依頼することができる契約です。

 

[図表3]一般媒介契約のイメージ

 

専任媒介契約:お客様が、契約した宅建業者1社だけしか媒介を依頼することはできない契約です。しかし、お客様が自分で相手を見つけて売買契約を結ぶことができます。

 

[図表4]専任媒介契約のイメージ

 

専属専任媒介契約:お客様が、契約した宅建業者1社だけしか媒介を依頼することはできないことに加えて、お客様が自分で見つけた相手との取引まで契約した宅建業者を通す必要がある契約です。

 

[図表5]専属専任媒介契約のイメージ

 

宅建業者は、不動産の売買などの媒介契約を締結した場合、遅滞なく媒介契約書を作成して記名押印し、お客様に交付しなければなりません。ただし、貸借の媒介契約であれば、媒介契約書を作成する義務はありません。

 

一般媒介の有効期間の制限はありません。これに対して、専任媒介契約と専属専任媒介契約の有効期間は、最長で3ヵ月とされています。

 

また、お客様は宅建業者に対して、業務の処理状況の報告を求めますが、一般媒介の場合、宅建業者に業務状況の報告の義務はありません。これに対して、専任媒介の場合、2週間に1回以上、業務状況を報告しなければなりません。専属専任媒介の場合、1週間に1回以上、報告しなければなりません。

 

[図表6]媒介契約の内容の違い

 

そして、宅建業者は、レインズ(REINS)という不動産情報システムを利用しています。「レインズ」とは、不動産流通機構が運営しているコンピューターネットワークシステムのことです。正式名称は、「Real Estate Information Network System(不動産流通標準情報システム)」です。これに売却対象の不動産を登録することで、買主を探すことができます。一方で、不動産の購入を希望する人は、売却対象の不動産の情報を入手することができます。

 

[図表7]レインズの活用イメージ

 

一般媒介の場合は、レインズへ登録する義務はありません。これに対して、専任媒介の場合、買主を早く見つけるために、媒介契約の締結日から7日以内に、売却対象の不動産情報を、レインズに登録しなければなりません。専属専任媒介の場合は、5日以内です。

 

宅建業者によっておこなわれる「重要事項説明」とは?

宅建業者は、不動産取引の売買や賃貸借の媒介をおこなう際、買主または借主に対して、売買契約や賃貸借契約が成立する前に、宅地建物取引士を同席させて重要事項を記載した書面を交付し、説明しなければいけません。これを「重要事項説明」といいます。

 

宅建士は、重要事項の説明をおこなうとき、お客様に対して、宅地建物取引土証を提示しなければなりません。また、説明をするために交付する書面に、記名押印しなければなりません。

 

宅建業者には「報酬の制限」がある

宅建業者による不動産の売買の媒介では、宅建業者が、売主または買主の両方から受け取ることができる報酬には、次の図表8のような上限が設けられています。

 

宅建業者による不動産の賃貸の媒介では、宅建業者が、売主および買主の両方から受け取ることができる報酬の合計額は、家賃の1ヵ月分に相当する金額です。

 

[図表8]宅建業者の報酬の制限のイメージ

契約締結時期の制限

宅建業者は、都市計画法による開発許可を受ける前の造成宅地や建築基準法による建築確認を受ける前の新築建物について、売買契約を締結することはできません。

 

これは、あまりにも早い段階での契約締結を認めてしまうと、予定通りの物件が完成せず、購入者が不利益を被るおそれがあるからです。宅地の開発許可や、建物の建築確認は、市区町村役場がチェックする制度であり、これらを受けたあとならば、予定通りの物件が完成する可能性が高くなり、売買契約を締結しても問題ないと考えるのです。

 

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自ら売主制限

自ら売主制限とは、宅建業者が自ら売主となって、宅建業者でない人が買主となる売買契約に適用される制限です。このような売買契約では、プロの宅建業者と素人との間に、能力や経験において大きな差があります。プロの宅建業者が、素人の無知につけこんで、一方的に売主に有利な契約を締結することがないよう、特別な制限が設けられているのです。

 

宅建業法の規定のうち、8種類が宅建業者に対して適用されなくなることから、これを「自ら売主の8種制限」といいます。

 

[図表9]自ら売主の8種制限

 

ここで最も重要なものは、クーリング・オフ制度です。この正式名称は、「事務所等以外の場所においてした買受けの申込みの撤回等」といいます。

 

これは、宅建業者である売主の事務所以外の場所で、宅建業者以外の人が購入申込みや売買契約の締結をおこなった場合、書面告知の8日以内であれば、書面によって、申込みの撤回や売買契約の解除をおこなうことができるようにする制度です。

 

ここでの8日以内というのは、宅建業者が、買主に対して、申込み撤回や契約解除をおこなうことができる旨およびその方法について書面で告知した場合、その告知した日から起算して8日を経過するまでの期間ということになります。したがって、宅建業者が、書面の告知を忘れていた場合には、クーリング・オフ制度の期間がずっと続いていくことになります。

 

クーリング・オフ制度が適用されるのは、売主の事務所以外の場所で手続きがおこなわれた場合です。このような場所で手続きがおこなわれますと、購入するかどうかの決心がつかないまま、申込んでしまったり、契約を結んでしまったりするケースが多いからです。したがって、売主の事務所で購入の申込みや売買契約の締結をおこなった場合には、クーリング・オフ制度の適用はありません。

 

 

岸田 康雄
国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士

 

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