(画像はイメージです/PIXTA)

不動産の売買契約を結んだにもかかわらず、売主がきちんと不動産を引き渡さないといったケースを「債務不履行」といいます。ここでは、債務不履行における「履行遅滞・履行不能・不完全履行」3つのパターンのほか、「危険負担」「契約不適合責任」も見ていきます。FP資格を持つ、公認会計士・税理士の岸田康雄氏が解説します。

危険負担:売買契約後、大地震で物件が消失したら…?

売買契約をおこなってから建物の引渡しまでの間、万一、大地震が発生して建物が燃えてしまったら――。売主は、燃えてしまった建物を引渡せませんが、買主は売買代金の全額を支払わなければいけないのでしょうか? 売主と買主のどちらが損害を負担するかが問題です。これを「危険負担」の問題といいます。

 

2022年現在の民法では、売主に責任がない場合であっても、買主が目的を達成できない場合には、買主は売買契約を解除することができます。すなわち、損失の危険を売主が負担するのです。

 

[図表1]危険負担のイメージ

 

★不動産売買の債務不履行トラブルについてはこちらをチェック

【FP3級】不動産売買のトラブルとは?債務不履行と契約不適合を理解する

債務不履行:履行遅滞/履行不能/不完全履行の問題

相手に何かしてもらえる権利を「債権」、相手に何かしなければならない義務のことを「債務」といいます。「債務不履行」とは、債務者が、正当な理由がないのに、債務を履行しないことをいいます。

 

不動産売買では、売主が不動産を引き渡す債務をきちんと履行しないことが問題となります。債務不履行には、「履行遅滞」「履行不能」「不完全履行」の3つがあります。

 

[図表2]債権と債務のイメージ

 

(1)履行遅滞

履行遅滞とは、履行が可能であるにもかかわらず、期限を過ぎても履行しない場合です。

 

たとえば、売主が引渡し期日を過ぎても不動産を引き渡さなかったり、買主が支払い期日を過ぎても代金を支払わなかったりする場合は、履行遅滞となります。

 

債務者のせいで債務の履行遅滞が生じた場合、債権者は債務者に対して、損害賠償請求をおこなうことができます。また、この場合、債権者は、相当の期間を定めて履行の催告をして、その期間内に履行されなかったときは、売買契約を解除することができます。

 

[図表2]履行遅滞のイメージ

 

(2)履行不能

履行不能とは、契約を締結したときは、債務を履行できたものの、そのあとに状況が変わって、履行できなくなった場合です。

 

たとえば、建物が火事で燃えてしまい、引渡しできなくなった場合に、履行不能となります。

 

この場合、売主のせいで、建物を引き渡すことができないのであれば、買主は、直ちに売買契約を解除することができるとともに、売主に対して損害賠償請求をおこなうこともできます。

 

また、2022年の民法では、売主に責任が無くても、建物の引き渡しが不可能であるかぎり、買主は、売買契約を解除することができます。

 

[図表4]債務不能のイメージ

 

(3)不完全履行

不完全履行とは、とりあえず債務は履行されたものの、それが不完全な場合です。この場合、売主の契約不適合責任の問題が発生します。

契約不適合責任:「契約内容と、話が違うのだが!?」

売主が引き渡した不動産が契約内容と異なっていたり、面積が不足していたりする場合に、買主は売主に対して、損害賠償や契約解除のほか、修理や交換を請求することができ、修理や交換ができない場合は、代金の減額を請求することになります。引き渡された不動産が、契約に適当していなかったことになるため、これを契約不適合責任といいます。

 

これは、売主は過失(=落ち度)があったかどうかに関係なく発生する責任です。これを「無過失責任」といいます。

 

買主がこれらの請求をおこなうためには「契約不適合の問題を発見してから1年以内」に、売主に通知する必要があります。

 

ただし、この契約不適合責任は任意規定であるため、民法では「特約」を設けて売主の責任を免除したり、内容を変更したりすることができます。「買主が契約不適合を知った時点から1年以内に通知」としていては、買主が発見しない限り、売主はいつまでたっても責任から逃れられませんので、「契約不適合責任を負わない」という特約を設けることも可能です。

 

しかし、宅地建物取引業法では、宅建業者が自ら売主となり、宅建業者以外の一般人が買主となる場合、契約不適合責任について、買主が請求できる期間を、「物件の引渡し日から2年以上」とする特約に限ることとなっています。最低2年間は責任を負わなければいけないのです。

 

また、住宅の品質確保の促進等に関する法律では、新築住宅について、新築住宅の請負人または売主は、その注文者または買主に対して、引渡したときから10年間は、構造耐力上、主要な部分の欠陥について、その責任を負わなければならないこととなっています。

契約解除と損害賠償請求

債務者が債務を履行しないとき、債権者は、相当の期間にわたって催告し、その期間内に履行がないときは、相手方は契約を解除することができます。催告とは、「早く建物を引き渡せ!」と請求することです。同時に、債権者は、自分に生じた損害賠償を請求することができます。損害賠償とは、発生した損害を補償することです。

 

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健康保険証の資格喪失 亡くなった時の対処法とは?慌てる前にやり方を確認!

まとめ

以上、債務不履行について取り上げました。売主による契約不適合責任について、宅建業法では、宅地建物取引業者が自ら売主となった場合の責任が重くなっている点がポイントですので、よく覚えておきましょう。

 

 

岸田 康雄
国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士

 

★個人事業主の所得の計算方法はこちらをチェック

【事業所得】自営業者(個人事業主)の所得の計算、雑所得との違いまで解説

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