「借主の立場が、弱すぎるので。」1992年に制定された〈借地借家法〉…一般人も知っておきたい「不動産の賃貸借取引」のキホン

「借主の立場が、弱すぎるので。」1992年に制定された〈借地借家法〉…一般人も知っておきたい「不動産の賃貸借取引」のキホン
(画像はイメージです/PIXTA)

不動産取引のなかでも重要な「賃貸借」。自宅を賃貸する機会がある一般の方なら、無縁ではありません。賃貸人と賃借人それぞれの立場をイメージしながら、借地借家法の内容を見ていきましょう。自身もFP資格を持つ、公認会計士・税理士の岸田康雄氏が解説します。

借主を保護する「借地借家法」だが、旧法の影響はまだ残る

一般的に、不動産の借主は、貸主よりも社会的・経済的に弱い立場にあります。そこで、1992年に借主を保護するための法律として「借地借家法」が制定され、「借地法」「借家法」「建物保護ニ関スル法律」といった旧法は、廃止されました。

 

しかし、借地借家法のうち主要な部分は、施行日である1992年8月1日より前に成立した既存の借地・借家関係には適用されず、これらには旧法の規定が適用され続けることとなっています。特に、借地権は、圧倒的に旧法に基づく借地権が多いため、旧法の規定を適用される借地権が今後も残ることが想定されます。

 

★借地権と借家権の違いについてはこちらをチェック

【FP3級】借地権と借家権とは?借地借家法に基づく賃貸借を学ぶ

「借地関係」を深掘り…7つのポイント

(1)土地の賃貸借契約

借地権とは、建物の所有を目的とする地上権または賃貸借です。

 

地上権とは、土地を使用する物権をいい、賃借権とは、賃貸人の承諾を得て、土地を間接的に支配する債権をいいます。地上権には登記義務がありますが、賃借権には登記義務がありません。

 

借地権には、旧法に基づく借地権と、借地借家法に基づく借地権があります。資材置場や駐車場として使用することを目的として借りる場合、借地借家法の借地権ではありません。

 

(2)借地借家法の普通借地権

借地借家法の借地権には、普通借地権と定期借地権があります。

 

普通借地権とは、更新が認められる借地権です。この契約は、借地権設定者である地主と借地権者である借地人との間の合意のみで成立します。

 

当初の存続期間は、最短で30年、契約により30年を超えて定めることができます。ただし、期間の定めのない借地権を設定することはできません。期間を定めなかった場合には30年として取り扱われます。

 

最初の存続期間か満了すると、契約を更新することができます。更新後の期間は、最初の更新のときは最短で20年、2回目以降の更新のときは最短で10年とされます。更新時に期間を定めなかった場合には、自動的に20年または10年となります。

 

[図表1]普通借地権の存続期間

 

(3)普通借家権の更新

普通借地権の更新には、合意による更新と法定更新があります。

 

普通借地権の存続期間か満了したとき、当事者間で更新の合意ができなかったとしても、建物がある場合に限って、契約が自動的に更新されます。これを法定更新といいます。

 

普通借地権の存続期間が満了する際、借地人が更新を請求したときは、建物がある場合に限って、これまでの契約と同一条件で更新したものとみなされます。ただし、地主が、正当な理由によって異議を述べたときは、契約を更新することはできません。

 

一方、普通借地権の存続期間が満了したにもかかわらず、借地人が土地の使用を継続しているとき、建物がある場合に限って、これまでの契約と同一条件で更新したものとみなされます。この場合も、地主が、正当な理由によって異議を述べたときは、契約を更新することはできません。

 

そして、普通借地権の存続期間が満了する前に、建物が火事で燃えてしまったことにより、借地人が、残りの期間を超えて使用することが可能な建物を建築したときは、地主の承諾があれば、借地権が20年間続くこととなります。

 

(4)普通借家権の存続期間

旧借地法では、契約の存続期間を定めなかった場合、建物が使えなくなったときに借地権が消滅するものとされていました。しかし、借地借家法では、建物が使えなくなっていたとしても借地権が消滅することはありません。

 

(5)借地権の対抗力

民法は、地上権と賃借権は、登記によって第三者に対抗することができるものとしています。

 

この点、借地借家法は、民法の特則を定めており、借地人は、借地権の登記がなくても、その土地の上に借地人の名義で登記された建物を所有するときは、これをもって借地権を第三者に対抗することができるものとしています。

 

そもそも、地上権の登記も賃借権の登記も、地主と借地人とが共同でおこなわなければいけません。しかし、地上権の登記については、地主が協力する義務があるのに対して、賃借権の登記については、地主に協力する義務がありません。そのため、賃借権の登記について地主の協力を得られるケースが少なく、賃借権の登記はほとんどおこなわれていないのです。そこで、借地人を保護するために、このような特則を認めているのです。

 

たとえば、こんなケースを考えてみましょう。Aさんは、Bさんから土地を賃借し、その上に建物を建てて所有していました。土地に賃借権の登記はおこなっていませんが、建物にはAさんの名義で所有権の登記をおこなっています。その後、Bさんが土地をCさんに譲渡してしまったとしましょう。

 

新たに土地の所有者になったCさんは、Aさんに土地の明渡しを求めてきました。この場合、Aさんは土地をCさんに明け渡さなければならないのでしょうか。

 

借地借家法によれば、Aさんは、土地の上にAさん名義での登記をしている建物を所有しているので、AさんはCさんに対して、土地の賃借権を主張することができます。したがって、Aさんは土地を明け渡す必要はありません。

 

[図表2] 借地権の対抗力のイメージ

 

(6)建物買取請求権

民法によれば、土地の賃貸借の期間が満了したとき、賃借人は、建物を取壊し、土地を更地にしたうえで、地主に返還しなければなりません。

 

しかし、借地借家法によれば、普通借地権の期間が満了したとき、契約更新がなければ、借地人は、地主に対して、建物を時価で買い取ることを請求することができることとなっています。これを建物買取請求権といいます。

 

(7)土地の賃借権の譲渡または転貸の許可

借地人が、借地の上にある自分の建物を第三者に譲渡しようとする場合、借地権も譲渡するか、転貸する必要があります。この場合、借地人は、地主の承諾を得るか、裁判所の許可を得ることが必要です。

「借家関係」を深掘り…5つのポイント

(1)建物の賃貸借契約

建物の賃貸借契約には、借地借家法が適用され、賃借人が保護されています。すなわち、建物の引渡しを受けて住んでいれば、登記していなくても、第三者に対抗することができます。

 

[図表3]建物の賃貸借契約

 

(2)借地借家法の普通借家契約

借家契約には、普通借家契約と定期借家契約があります。

 

普通借家契約は、契約期間が満了しても更新がある借家契約です。

 

(3)普通借家契約の存続期間

普通借家契約は、賃貸借期間を定めないことができます。

 

賃貸借期間を定めることもできますが、その場合、民法に従って20年とする必要はなく、20年を超える契約を締結することもできます。ただし、1年未満とすることができません。

 

(4)普通借家契約の更新

普通借家契約の更新には、合意による更新と法定更新があります。

 

当事者が期間満了の1年前から6ヵ月前までの間に相手方に対して更新しないと拒絶通知した場合、契約は終了となります。そのような拒絶通知が無かった場合には、更新に合意できなかったとしても、期間の定めがなく、これまでと同一条件で、契約が自動的に更新されたとみなされます。これを法定更新といいます。

 

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(5)契約終了

期間の定めがある普通借家契約は、当事者が期間の満了の1年前から6ヵ月前までの間に相手方に対して更新しないと拒絶通知した場合、期間満了によって契約は終了します。

 

これに対して、期間の定めのない普通借家契約の場合、当事者は、いつでも解約の申入れをして、契約を終了させることができます。賃借人が解約の申入れをした場合、3ヵ月経過したときに終了となりますが、賃貸人が解約の申入れをした場合、6ヵ月経過したときに終了となります。

 

賃貸人は、正当な理由がなければ、普通借家契約の更新拒絶や解約をおこなうことができません。賃借人を保護するためです。

 

また、普通借家契約が終了したあとでも、賃借人が引越しすることができずに、その建物に住み続けている場合、賃貸人が、すぐに出て行けと言わなかったときには、これまでの契約と同一条件で、期間の定めのない契約を更新したものとみなされます。

 

[図表4]普通借家契約の概要

 

 

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岸田 康雄
国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士

 

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