プライベート・クレジット戦略とは?
オルタナティブ投資のなかでも、プライベート・エクイティ戦略はその中心的な存在で、ブラックストーン、KKR、カーライルといった運用会社は「三大プライベート・エクイティ・ハウス」と称されています。実はこれらの運用会社は、時代とともに他のブティック型(大手金融機関の傘下ではない、分野特化型のものを指す)の運用会社の買収などにより、現在はより多様な戦略を運用しています。
なかでも昨今注目を浴びているのが、プライベート・クレジット戦略です。
元々は、金融危機や景気後退期に、破綻企業の債権回収を行うようなディストレスト戦略や、銀行融資とエクイティ調達の間を埋める劣後債などがその主体でした。しかし昨今では、債券市場や銀行以外からの資金調達として実施されるダイレクト・レンディング戦略などが、機関投資家並びに富裕層個人に幅広く投資されています。
クレジット戦略(主に信用リスクを取ることで高いリターンを得ようとする戦略)を考える上で、資本構成とリスクの把握は最も重要な観点です。
ですが、これらプライベート・クレジット戦略は、投資先により全くリスクが異なります。実際にどの戦略で、資本構成のどこの部分に投資をしているかを留意して理解する必要があります。
たとえば、昨今クレディスイスの破綻により無価値となったAT1債で考えてみます。AT1債は債券ではあるものの劣後債の更に下、株式の1つ上の資本構成です。当然ながら、クレディスイスの第一抵当であるシニアローンは最も優先されて価値回復を行なっていくことになります。このことから、取っているリスクが各々全く異なっていることが分かります。
ダイレクト・レンディング戦略とは?
では、前述のダイレクト・レンディング戦略とは一体どのようなものでしょうか? 本日は、プライベート・クレジット戦略のなかでも、ダイレクト・レンディング戦略について深堀りしてみたいと思います。
これは、いわゆる「私募債、私募ローン」と呼ばれるもので、債券市場で調達することができない、またはすることを望まない未上場企業のローンや、銀行が扱わない規模のローンを、銀行以外の貸し手が直接組成し、貸付を行います。
多くの場合、元々企業審査を自前で行うことが可能な、クレジット戦略に強い運用会社が貸付を行います。恐らく日本人の感覚では、「銀行が融資しない企業は危ないに違いない」と思う方も多いかもしれません。
しかし、実は銀行以外の私募ローンによる資金調達はグローバルで1.47兆ドル(約197兆円)、米国では9,000億ドル*規模に及んでおり、米国全体のクレジット市場の30%超と言われています。
この背景には、米国の銀行業界の再編による中小銀行の破綻吸収、大手銀行の大型案件への集中という構造的な変化があり、その動きは15年間で1,600件もの銀行破綻があった1980年代から始まっています。