人格的な権利
上記のとおり、企業の案件として著作物を制作した場合に著作権が誰に帰属するかは、その著作物が職務著作物に該当するか否かで決まります。
そこで以下、職務著作に該当する場合としない場合とで分けて説明いたします。
(1)職務著作物に該当しない場合
職務著作物に該当しない場合、著作者は制作者本人になりますので、制作者本人が「自分の作品である」と公表することは当然可能です。
とはいえ、本事例では他社の企業キャラクターに抜擢された、とのことですので、著作権を他社に譲渡していると考えられます。
この場合でも、制作者は自分の作品であると公表できるのでしょうか。
この点、著作者が持つ権利には、人格的な権利である著作人格権と、財産的な権利である著作権(財産権)とに分かれています。
そして、著作物を公表するかどうかを決める公表権、著作者名をどのような名前で表示するかを決める氏名表示権、著作物の内容を意思に反して改変されない権利である同一性保持権の3権利は著作者人格権に分類されていますが、この著作者人格権は著作者のみに認められる権利で、相続や譲渡によって他人に移転させることはできません(著作権法第59条)。
制作物に自分の名前を表示する権利の、著作者人格権である氏名表示権ですから、契約によっても譲渡することはできず、仮に著作権が譲渡されていたとしても、氏名表示権は依然として制作者個人が有しています。
従いまして、本事例のように、他社にキャラクターの著作権が譲渡されていたとしても、制作者は氏名表示権に基づき、自身が制作者であると公言することができます。
ただ、著作者人格権は、譲渡はできなくとも制限することは可能です。
そのため、制作者個人から企業に著作権を譲渡する際、譲渡契約書の中に「会社に対しては、著作者人格権を行使しない」と記載されている場合には、会社に対して「著作者人格権に基づいて、制作者の名前を載せろ」と主張することができなくなってしまいます。
従いまして、著作権を譲渡する際には、著作者人格権の制限項目がないか、あったとしても、自分の名前の表記ができるようになっているかを確認する必要があります。
(2)職務著作物に該当する場合
職務著作物に該当する場合は、著作者は会社となり、人格者著作権も会社が有しておりますので、実際の制作者であっても、作品に自分の名前を表示することはできません。そのため、そもそも職務著作にならぬよう、会社との間で「職務上作成したものであっても、個人の著作とする」というような契約を結んでおく必要があります。
他方、既に職務著作として制作してしまっているものについては、著作者人格権の譲渡を受けることはできません。
そこで、会社の氏名表示権行使の際に、著作者の名前に自分の名前を入れてもらうよう、会社と協議を行い、契約する必要があります。
以上、著作権関連の権利関係を簡単にまとめますと、次のとおりになります。
①著作物の制作者が著作者となるが、例外的に、法人等が著作者となる場合もある。
②著作者には、著作者人格権と著作権(財産権)が認められている。
③著作者が著作権を譲渡し、著作者と著作権者が異なった場合でも、著作権者は常に著作者人格権を有しており、これを譲渡することはできない。
④著作者人格権は、契約で行使を制限することができる。
このように、会社の中で著作物を制作する場合には、まず著作者が誰になるのかを確認した上で、著作権の譲渡をどうするか、その際著作者人格権をどのように扱うかについて、慎重に検討する必要があります。