(※写真はイメージです/PIXTA)

元陸将の渡部悦和氏と井上武氏、元海将補の佐々木孝博氏は、ロシア軍は戦況が悪くなった場合「核兵器を使っても驚かない」といいます。ただし、その際には「原爆」のようなイメージとはまったく異なる攻撃となるようです。プーチンがたくらむ「核攻撃」とはどのようなものなのでしょうか、みていきます。※本連載は、渡部悦和氏、井上武氏、佐々木孝博氏の共著『プーチンの「超限戦」その全貌と失敗の本質』(ワニ・プラス)より一部を抜粋・再編集したものです。

“人体には影響のない”核攻撃をする可能性

佐々木 これまでプーチン大統領は再三核戦力の使用をちらつかせてきました。相手国に多大な被害を及ぼし、放射能の影響も多大である核の使用を、なぜプーチン大統領は安易に考えることができるのか。

 

そういう疑問が私にはずっとあったわけですが、その答えのひとつが高高度電磁パルス(HEMP)攻撃として使うのではないかということです。HEMPは人体に影響はないとされていますが、都市機能を完全にマヒさせることが可能な電磁波攻撃と言われています。

 

核使用と言うと、広島や長崎に落とされた原爆のような攻撃を連想しがちですが、HEMPは地上から数十~数百キロメートルの上空で爆発させる兵器です。それゆえ、人体には影響がないと言われています。

 

EMPの分析をしている陸自OBの鬼塚隆志氏によると※1、広島、長崎で落とされた原爆よりも威力の低い10キロトンの核弾頭―広島型が15キロトン、長崎型が21キロトン―を、高度30キロメートルでEMP爆弾として使用すると、半径600キロメートルにわたって影響が出ると分析しています。さらに爆発力を数キロトンまで落とせば、被害地域をもっと小さくすることも可能だと見積もられます。

 

※1 鬼塚隆志「国民も知っておくべき高高度電磁パルス(HEMP)の脅威―HEMP攻撃対応準備を急げ」〈https://www.ssri-j.com/SSRC/oniduka/oniduka-5- 20150121.pdf〉(2022年1月31日アクセス)

 

ウクライナの領土は東西が約1400キロメートル、南北が約900キロメートルと非常に広大です。限定されたEMPとして戦術核を使用する可能性は捨てきれないのではないでしょうか[図表]。

 

出典:米国戦争研究所作成図(日本経済新聞HP掲載)を基に佐々木作成
[図表]EMP影響圏の見積もり(半径600km) 出典:米国戦争研究所作成図(日本経済新聞HP掲載)を基に佐々木作成

 

渡部 私も過去出版した書籍※2で、HEMPの研究で有名な米国のピーター・プライ博士の報告書「核EMP攻撃シナリオと諸兵種連合サイバー戦※3」を紹介しています。

※2 渡部悦和『自衛隊は中国人民解放軍に敗北する』扶桑社新書(2020年11月1日)

※3 Peter Vincent Pry,“ NUCLEAR EMP ATTACK SCENARIOS AND COMBINED-ARMS CYBER WARFARE”, Report to theCommission to Assess the Threat to the United States from Electromagnetic Pulse(EMP)Attack〈https://apps.dtic.mil/sti/pdfs/AD1097009.pdf>(2022.8.10 accessed〉

 

プライ博士は、ロシア、中国、北朝鮮などのHEMP攻撃について、長年警告を発してきました。

 

彼は、「HEMP攻撃は技術的および運用上、核兵器の最も簡単で、最もリスクが少なく、最も効果的な使用法だ」「EMP攻撃は現実的な危険であり、中国やロシアの軍事教義の文書で公然と議論されている。

 

例えば、ロシアのウラジーミル・スリプチェンコ大将は2000年、彼の著作『非接触戦争』でEMPを使用するロシアの意図を最初に開示している」と書いています。EMP攻撃は大量破壊を引き起こして敵を降伏させる、比較的簡単で、原因がわかりにくい手段であるとみなされています。

 

一方で、地上では爆風や熱風、放射線などで人体に直接的な被害を与えないと言われています。このため、中国、ロシアなどは、核EMP攻撃は核攻撃ではないと主張しているから厄介です。

 

 

渡部 悦和

元陸上自衛隊 陸将

 

井上 武

元陸上自衛隊 陸将

 

佐々木 孝博

元海上自衛隊 海将補

 

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※本連載は、渡部悦和氏、井上武氏、佐々木孝博氏の共著『プーチンの「超限戦」その全貌と失敗の本質』(ワニ・プラス)より一部を抜粋・再編集したものです。

プーチンの超限戦 その全貌と失敗の本質

プーチンの超限戦 その全貌と失敗の本質

渡部 悦和 井上 武 佐々木 孝博

ワニ・プラス

2022年6月、ワニブックス【PLUS】新書として発刊され好評を博した『ロシア・ウクライナ戦争と日本の防衛』の続編が、読み応えある単行本として登場。3人の自衛隊元幹部が、プーチンとロシアが行っている戦争を「超限戦」と捉え…

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