「名誉棄損罪」となる条件と刑罰
X(旧Twitter)での誹謗中傷が刑法上の名誉毀損罪に該当するための条件と、名誉毀損罪の法定刑はそれぞれ次のとおりです。
名誉棄損罪が成立する条件
名誉毀損罪とは、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した」ことに対する罪です。 これを分解すると、X(旧Twitter)での誹謗中傷が名誉毀損罪に該当する条件は、次のとおりです。
1. 公然と行われたものであること:ほかのユーザーが見ることのできる場への投稿であることです。
2. 事実を摘示したものであること:「Aは会社の金を横領している」「Aは不倫をしている」など、事実を示したものであることです。なお、ここでいう「事実」は「本当のこと」という意味ではありません。そのため、Aが実際には横領や不倫をしていなかったとしても、この条件を満たします。
3. 名誉を毀損したものであること:相手の社会的評価を下げることです。
これを踏まえると、たとえばA氏がしたツイートへ返信をする形で「Aは不倫三昧だ」などと投稿する行為や、A氏が自撮り画像を載せたツイートを引用リツイートして「Aは整形しているのにぶすだ」などと投稿する行為は、名誉毀損罪にあたる可能性があります。
一方、たとえ同じ内容であったとしても、個別のダイレクトメールで送られたのであれば、原則としては名誉毀損罪には該当しません。なぜなら、「公然と」という要件に該当しないためです。
名誉棄損罪の刑罰
名誉毀損罪の刑罰は、「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金」です。
「侮辱罪」となる条件と刑罰
X(旧Twitter)での誹謗中傷が刑法上の侮辱罪に該当するための条件と、侮辱罪の法定刑は、それぞれ次のとおりです。
侮辱罪が成立する条件
侮辱罪とは、「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した」ことに対する罪です。名誉毀損罪と似ていますが、事実の摘示が不要とされている点が大きく異なります。そのため、たとえばX(旧Twitter)投稿への返信や引用リツイートなどで「ぶす」「キモいから消えて」などと投稿する行為などは、侮辱罪にあたる可能性があります。
一方、侮辱罪でも「公然と」が要件とされているため、1対1のダイレクトメールでの発言であれば侮辱罪は原則として成立しません。
侮辱罪の刑罰
侮辱罪の刑罰は現在、「1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」です。以前は「拘留又は科料」のみであったところ、刑罰が軽すぎるとの指摘が高まり、現在の内容へと改正されました。これは、テレビ番組に出演していた女子プロレスラーがX(旧Twitter)での誹謗中傷を受け、命を絶った事件を契機とするものです。
誹謗中傷をしてきた相手を特定するには?
X(旧Twitter)で誹謗中傷をされた場合、相手に対して損害賠償請求をしたり刑事告訴をしたりするためには、相手が誰であるのか特定ができていることが前提となります。そのため、損害賠償請求などをする前に、誹謗中傷をした相手を特定しなければなりません。誹謗中傷をした相手を特定する方法は、次のとおりです。
X(旧Twitter)社に発信者情報を開示させるための仮処分をする
まず、誹謗中傷の舞台となったX(旧Twitter)社に対し、発信者情報の開示請求を行います。ただし、任意に開示請求をしたところで、開示される可能性はほとんどありません。そのため、裁判所の手続きを利用して発信者情報の開示をしてもらうことが必要です。この手続きを経ることで、プロバイダへの開示請求に必要となるIPアドレスとタイムスタンプが判明します。
プロバイダに発信者情報開示請求をする
X(旧Twitter)社からIPアドレスなどの開示を受けたら、入手した情報をもとにプロバイダへ発信者情報開示請求を行います。こちらも任意では開示してもらえない可能性が高いため、改めて裁判所の手続きを利用することがほとんどです。ここまでの手続きを経ることで、ようやく発信者の氏名などの情報がわかります。
なお、これら発信者情報の開示手続きにトータルでかかる期間は、おおむね半年から1年程度です。ただし、令和4年10月に施行された改正プロバイダ制限責任法により2段階の仮処分手続きを併合できるようになったため、所要期間の短縮が期待されています。