時代の変化に伴って、求められる「専門家」も変わります。かつて、高度な金融工学を駆使ししてウォール街に莫大な利益をもたらした理系エリートが「時代の寵児」となったように、ESG推進の潮流の中にある今日では、環境や人権の専門家が脚光を浴びるようになっています。本稿では、フロンティア・マネジメント株式会社の代表取締役を務める松岡真宏氏と、同社のマネージング・ディレクターである山手剛人氏の共著『ESG格差 沈む日本とグローバル荘園の繁栄』から一部を抜粋し、ESGを掲げる社会で不可避な専門家との連携について解説します。
時代の要請が「専門家」の地位を引き上げた事例
それは現代だけでなく、過去においても同様だった。例えば、中世ドイツの画家アルブレヒト・デューラー。『毛皮の自画像』など多くの自画像を残したことで知られる画家であり、版画家だ。
中世での画家は単なる職人だった。佐藤直樹著『東京藝大で教わる西洋美術の見かた』には、ドイツ・ルネサンスの巨匠として、デューラーがいかに生涯を通じて社会の階段を上っていったかが紹介されている。
絵画の状態を永遠に美しく保存したいという求めに応じ、デューラーは「500年美しさや瑞々しさを保証する」というレター付きで絵画制作の注文に応えた。
その後デューラーはアカデミズムとの交流を始めた。そして、神聖ローマ帝国の宮廷画家として名声を得ることに成功し、職人から芸術家となった。彼が本来得意としていた版画も、職人の技巧から芸術の重要なジャンルに押し上げられたという。
「ESG」に対して我々はどのように接するべきか
ESGへの注目によって昨今、地位が引き上げられている新しい専門家たちも、NASAの理系エリートや画家のデューラーと同じだ。
環境の専門家、人権の専門家など、これまでの経済社会で必ずしも脚光が当たっていなかった専門家が台頭している。この2年間でウイルスの専門家に急に世間が注目していることも思い出されるだろう。
ESGのGとは異なり、EとSはいまだ評価が定まらない。評価が180度逆になってしまう可能性もありうる。だからこそ、健全な批判精神で留保しながら、ESG(の特にEとS)と同居していくという姿勢が求められる。
そのためには、時代の寵児となった新しい専門家との連携が不可避である。
ESGの何が正しいのか、現時点では不透明なことも多い。
しかし、欧米中心(欧州中心の色彩が強い)で世界的な潮流となっているこのESGと、とにかく付き合っていくしかない。
松岡 真宏
フロンティア・マネジメント㈱
代表取締役 共同社長執行役員
山手 剛人
フロンティア・マネジメント㈱
マネージング・ディレクター コーポレート戦略部門 企業価値戦略部長 兼 産業調査部
フロンティア・マネジメント株式会社
代表取締役 共同社長執行役員
職歴
株式会社野村総合研究所、バークレイズ証券会社を経て、1997年にUBS証券会社(現、UBS証券株式会社)に入社し、1999年に株式調査部長兼マネージングディレクターに就任。2003年に㈱産業再生機構に入社し、マネージングディレクターに就任。2007年にフロンティア・マネジメント株式会社を設立し、代表取締役に就任。2012年にフロンティア・マネジメント株式会社の中国現地法人であるFrontier Management (Shanghai) Inc.(100%子会社)の董事長に就任。
著書に『「時間消費」で勝つ!』(共著、日本経済新聞出版社)、『宅配がなくなる日』(共著、日本経済新聞出版社)、『経営コンサルタントが読み解く 流通業の「決算書」』(監修、商業界)『持たざる経営の虚実』『時間資本主義の時代』『「良い投資」とβアクティビズム』監訳、『ESG格差』(日本経済新聞出版社)などがある。
学歴
東京大学経済学部卒業
著者プロフィール詳細
連載記事一覧
連載投資家ならSDGsと併せて知っておくべき、ESGを専門家が解説!
フロンティア・マネジメント株式会社
マネージング・ディレクター コーポレート戦略部門 企業価値戦略部長 兼 産業調査部
職歴
1999年にウォーバーグ・ディロン・リード証券会社(現UBS証券株式会社)に入社。2003年に同社株式調査部で小売セクター担当のシニア・アナリストに就任。2010年にクレディ・スイス証券会社に移籍。小売セクター担当のアナリストと消費関連産業の調査グループリーダーを兼務。2017年にフロンティア・マネジメント株式会社に入社。
専門
小売業界
学歴
東京大学経済学部卒業
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