ESGの観点から変化した「モノ」への意識とは
ESGの観点で、企業は取引先の選別も進める(人・モノ・金のうちの“モノ”)。
ジェンダーが偏った企業や児童労働で原料調達をする企業は真っ先に取引先リストから除外される。NTTグループなど日本の大手企業は「人権監査」を開始している。
取引先が人権侵害(強制労働や児童労働)をしていないかどうかをチェックする活動だ。人権遵守における不備があれば、取引停止を含め厳しい姿勢で臨む。
児童労働や強制労働以外にも、賃金の不足・未払い、過剰・不当な労働時間、社会保障を受ける権利の侵害、パワハラ、セクハラ、外国人労働者の権利侵害や差別、なども人権監査(金融用語として「デュー・デリジェンス(DD)」とも呼ばれる)の対象である。
人権デュー・デリジェンスはサプライチェーンだけではなく、自社の従業員も対象となる。主要な先進国でも、人権デュー・デリジェンスを法制化する動きが鮮明だ。
英国では、2015年、「英国現代奴隷法」が制定された。
この法律は、英国内で事業を行うグローバル企業(世界での年商が3600万ポンド以上)に対して、グローバルなサプライチェーン上における強制労働や人身取引の有無やリスクを確認し、「奴隷と人身取引に関する声明」を会計年度ごとに開示する義務を課している。
同様に、米カリフォルニア州では2012年に「サプライチェーン透明法」、オーストラリアでは2019年に「現代奴隷法」、オランダでは2019年に「児童労働デュー・デリジェンス法」が施行された。
製造業の多いドイツでも、2023年に「人権デュー・デリジェンス法」が施行される予定だ。
日本では、政府が2020年10月に行動計画を作り、「人権デュー・デリジェンスを導入することへの期待」を表明した。
ただし、人権デュー・デリジェンスは「推奨事項」にすぎず、企業への強制力はない。
世界中で、質の高い労働力とともに、優れた仕入れ先を奪い合う時代だ。遅かれ早かれ、日本でも欧米のような人権デュー・デリジェンスの法制化の動きが出てくるだろう。