(※写真はイメージです/PIXTA)

GDPが日本の3分の1ほどと小さいロシアが、世界経済の主要プレーヤーでいられる背景には、豊富な天然資源の存在があります。そして、ロシアをはじめとする資源国にとって、ESGは「望まざる客」といえます。本稿では、フロンティア・マネジメント株式会社の代表取締役を務める松岡真宏氏と、同社のマネージング・ディレクターである山手剛人氏の共著『ESG格差 沈む日本とグローバル荘園の繁栄』から一部を抜粋し、資源国と非資源国のESG推進へのコミットメントの違いとその背景について解説します。

ESGの「E」が国家を分断する可能性とは

ロシアに限らず、天然資源に恵まれた国家は、社会の持続可能性に対するコミットメントが強くない。そのインセンティブが乏しいとも言える。

 

ここに、ESGのEの切り口で、国家間が分断される様子が見て取れる。

 

カーボンニュートラルやグリーンエネルギーなどESGのEが目指す世界はクリーンで、誰もが抗いがたい世界だ。しかし、天然資源に恵まれた国家にとっては、それほど甘美な思想ではない。

 

パワーゲームにおけるカードの効力が弱められるからだ。

 

プロテスタントによる国家建設という出自から考えると、米国(カナダはカトリックとプロテスタントの比率が拮抗している)はドイツなど欧州の一部と同様の価値観を持っていると考えがちだ。

 

しかし、米国やカナダは原油や天然ガスといった天然資源に恵まれており、欧州の主要国とは初期的な条件が大きく異なる。

 

ESGは多分にキリスト教的な色彩が強いとも言われる。

 

それは地球環境への負荷、人権侵害など西洋人が歴史的に犯してきた罪への対応という側面があるのかもしれない。

 

プロテスタントのドイツも、カトリックのフランスやイタリアも、[図表1][図表2]では左上にプロットされている。

 

持続的社会の実現に対するコミットメントは必ずしも宗教的なものの影響だけではない。

 

むしろ、プロテスタントであれ、カトリックであれ、宗教的なものよりも、各国が保有している天然資源の水準こそが、社会の持続可能性に対するコミットメントを左右する。

 

国家を分断するESGのE。

 

ロシアのウクライナ侵攻による衝撃は、持つ国家と持たざる国家での利害衝突(コンフリクト)という対立の文脈から今後のESGを直撃すると理解すべきではないだろうか。

 

 

松岡 真宏

フロンティア・マネジメント㈱

代表取締役 共同社長執行役員

 

山手 剛人

フロンティア・マネジメント㈱

マネージング・ディレクター コーポレート戦略部門 企業価値戦略部長 兼 産業調査部

 

ESG格差 沈む日本とグローバル荘園の繁栄

ESG格差 沈む日本とグローバル荘園の繁栄

松岡 真宏・山手 剛人

日経BP

お飾りのSDGsでは勝てない。混沌とする世界のサステナビリティ動向を俯瞰して見えてきた、残念な日本企業の姿――。 脱炭素(E)の追求は、エネルギー危機で迷走!ESGの焦点は、日本企業が苦手なSとGへ。 〔地球・社会によ…

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