(※写真はイメージです/PIXTA)

いわゆる「なぁなぁの関係」は信頼関係があってこそ成り立つものです。もしも、その緩さにつけ込まれ、悪用されたら、一瞬でその関係は破綻します。その場合、悪用した側を法的にどこまで詰めることができるのでしょうか。そこで、実際にココナラ法律相談のオンライン無料法律相談サービス「法律Q&A」によせられた質問をもとに、実印悪用のケースにおける法的対処について、江頭啓介弁護士に解説していただきました。

自ら押印していなくても、契約が成立する?

この事例で問題となる点はもちろん、契約書の署名押印は誰のものなのかという点です。ただ、実際に争う場合は理論的な部分が多く理解が難しいので、本題に入る前に少し前提となる部分を整理してみたいと思います。

署名押印の意味

そもそも、文書とは、人の意思を書き記したものを言います。例えば、契約書はもちろんのこと、手紙、メール、LINE、はたまた黒板に書いたメッセージも全て文書となります。こうして見ると、我々は日々多くの文書をやり取りしながら生活をしていることになりますね。

 

文書には、その文書を作成した人が必ず存在します。誰が作成者なのかは文書の記載から判断されますが、文書の作成者が分からない文書は単なる怪文書となり、その文書全体の信用性が損なわれてしまいます。つまり、文書の名義は文書の信用性においてとても大事な要素なのです。

 

文書がメールやLINEの場合には、送信者アドレス欄やIDの部分で判断することができますが、契約書のような文書では、署名押印の部分に記載されている人物が作成者と判断されることが一般的です。

 

すなわち、契約書に署名押印をするということは、自分がその契約書を作成した人物として扱われることを意味することになります(契約書は当事者双方が署名押印するので、当事者が共同で一つの契約書を作成したという解釈になります)。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

裁判における文書の扱い

では、裁判においては、どのように文書が扱われるのでしょうか。

 

裁判所においては、文書を証拠とすることができ、これを「書証」と言います。他方で裁判所において直接話をする証人尋問等は「人証」と言います。

 

裁判所は書証として提出された文書があれば、その文書の作成者を確認します。そして、作成者が確定すれば、その文書に書かれているその内容を作成者が書いたものとして判断することになります。

 

本事例で言うと、金融公庫側が相談者さんの署名押印がある契約書を書証として提出するでしょう。その場合、当然金融公庫は契約書の署名押印は相談者さん本人がしたものだと主張すると思います。仮にこの主張が通れば、裁判所は、その契約書に書かれている通り、「相談者さんが自らの意思で借金の保証人になることを承諾した」と判断することになるでしょう。

 

どうやって争うのか。

本事例では、偽の署名押印がなされていますが、署名部分は、相談者さんの筆跡を比較するなどで争うことが考えられます。ご相談では、字が違うとのことですので、そこまで難しいものではないかと思います。

 

ただ、押印の方は少し違います。

 

本事例のように実印の押印が争いになる場合に必ず登場するのが民事訴訟法228条4項、「二段の推定」です。

 

漫画の必殺技みたいな名称ですが、とても有名な条文です。詳しく解説しているサイトも多くありますが、簡単に説明しますと、①とっても大事な「実印」が押されているので、自分で押したのだろう(一段目推定)、②自分で押したのだからその文書の内容を十分理解して押したのだろう(二段目推定)、と推定されてしまうということです。

 

つまり、実印が押されている事実だけで、契約書は相談者さんが自分の意思で作ったと裁判所に勘違いされている状態から裁判がスタートしてしまうということを意味します。

 

とても不利な状況からのスタートですが、相談者さんは、そもそも実印を押していないと言っていますので、以下のように一段目の推定で争うことになるでしょう。

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