(写真はイメージです/PIXTA)

近年、気候変動は地球の自然や生態系、社会経済システムにおける最も深刻な問題として認識されるようになった。温暖化による海面上昇が海岸を侵食し、沿岸地域や島のコミュニティを脅かすことは、気候変動の影響のひとつである(*1)。海面上昇の影響は、各地の沿岸部における洪水等災害の頻発という形で生じ、住民に多大な被害を及ぼしている。ニッセイ基礎研究所の胡笳氏が、米国における海面上昇が沿岸地域における住宅価格にも影響する可能性に着目し、米国を中心とする先行研究を整理し紹介する。※本稿が整理した先行研究はすべて2019年以前のものであり、新型コロナの影響は受けていない。

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海岸沿いの住宅販売価格は、そうでない住宅に比べて約7%安い

コロラド大学とペンシルバニア州立大学の研究者は海岸から0.25マイル(約400メートル)以内の物件に着目し、2007年~2016年までのZillow*2による46万件以上の住宅取引データを分析した結果、海岸沿いの住宅(投資物件)は、ビーチから距離のある物件より平均で約7%安く販売されていることが分かった。また、この割引額は時間の経過とともに拡大しており、今後も続く可能性があるという*3

 

同研究では、物件の立地(郵便番号)、建築年、海岸までの距離、標高、部屋数、所有者タイプ等について、類似した物件を比較分析し、過去、半世紀以上にわたり浸水した経緯がない住宅の販売価格が高いことを検証した。しかし、賃貸物件の家賃には同様な違いが認められなかったことから、価格への影響は、将来的に起こり得る長期的なリスクを想定したことによるもので、賃貸居住のように比較的短期的に居住する物件の現状によるものではないことが示唆されたという。

標高の高い戸建住宅は、標高の低い物件に比べて価格の上昇率が高い

ハーバード大学の研究者がフロリダ州のフロリダ半島南端東に位置するマイアミ・デイド郡を対象とした分析研究では、1971年~2017年にかけて、同郡における標高の高い戸建物件は標高の低い物件よりも価格の上昇率が高いことが分かった*4

同研究では、まず地元公務員、研究者、不動産開発業者、投資家、金融機関、住民、および活動家等へのヒアリングを通じて、各ステークホルダーは海面上昇による洪水リスクは住宅価格の上昇率に影響を与えていることが認識できる情報を得た。また、特定の標高の高いコミュニティへの投資活動が進んでいることも確認できた。

 

研究者たちは、物件のタイプ、戸数、規模、建築価格、建築年、部屋数、固定資産税評価額、立地等が含まれた約80万件以上の販売データを利用し、標高による影響を分析した結果、分析対象となる200世帯以上の25自治体のうち、24自治体では標高の高い住宅の価格上昇率が高いことが検証できたという。

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年4月28日に公開したレポートを転載したものです。

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