「もらい忘れ」で損してませんか?年金受給者で「65歳・配偶者が60歳」なら毎月「プラス3万円」がもらえる「加給年金」のポイント
1 ―先月までの動き
年金財政における経済前提に関する専門委員会は、有識者や委員からのヒアリングを行い、経済前提の作成方法について議論した。企業年金・個人年金部会は、今後の検討における主な視点の説明を受け、3人の有識者からヒアリングを行い、意見交換した。人口部会は、新しい将来推計人口の推計方法と推計結果の報告を受けた。
○社会保障審議会 年金部会 年金財政における経済前提に関する専門委員会
4月5日(第3回) 有識者及び委員からのヒアリング、総投資率と利潤率の関係、その他
URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32362.html (資料)
○社会保障審議会 企業年金・個人年金部会
4月12日(第21回) 私的年金制度に関する今後の検討における主な視点、有識者からのヒアリング
URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32579.html (資料)
○社会保障審議会 人口部会
4月26日(第23回) 日本の将来推計人口(令和5年推計)
2 ―ポイント解説:中小企業における在職老齢年金の影響
先月の企業年金・個人年金部会では、日本商工会議所の委員から在職老齢年金の廃止を求める意見が出た。私的年金の話題ではないものの、3月の年金部会に続く再度の意見表明となった。本稿では、在職老齢年金の仕組みと前回の改革を確認し、中小企業における在職老齢年金の影響を考察する。
1|仕組み:現役世代の保険料負担増を抑えるために、給与が高い高齢就労者の厚生年金を減額
65歳以上に対する在職老齢年金制度は、給与が高い高齢就労者の厚生年金を減額する仕組みである*1。現役世代の保険料負担の増加を抑えるため、2000年改正で厚生年金の加入対象の拡大(64歳まで→69歳まで)とあわせて導入され、2004年改正で減額の対象が70歳以降にも拡大された。
65歳以降に厚生年金が適用される形で働いた場合、月あたりの標準報酬と厚生年金月額の合計*2が現役男性の平均的な標準報酬(2023年度は48万円*3)を上回ると、上回った分の半額が厚生年金月額から減額される(図表1)*4。なお、減額されるのは厚生年金のみで、基礎年金(いわゆる1階部分)は減額されない。
*1:これに対し、60代前半に対する在職老齢年金は、元来、給与が低い在職者に厚生年金を特別に支給する仕組みである。
*2:月あたりの標準報酬は、その月の標準報酬月額と、その月以前の1年間の標準賞与の総額を12で割った額との合計。厚生年金月額には加給年金は含まれない。
*3:減額の基準となる現役男性の平均的な月あたりの標準報酬は、賃金上昇率に応じて年度ごとに改定される。
*4:厚生年金の受給開始を延期(繰下げ)している場合は、65歳から受け取るはずだった年金額と延期中の報酬をもとに減額分が計算され、減額後の年金額を基準として延期期間の長さに応じて割り増したものが延期後に支給される。
2|前回改革での議論:廃止が提案されたが、高所得者優遇となることなどが考慮され、法案化されず
前回(2020年)の年金改革に向けた議論では、高齢期の就労を抑制しないよう、厚生労働省は前々回に続いて在職老齢年金の廃止を改革素案(オプション試算)に盛り込んだ。しかし、減額の対象となるのは65歳以上の厚生年金加入者のうち収入が多い上位2割に限られ(図表2)、廃止すると高所得者を優遇する形になることなどが考慮され*5、法案には盛り込まれなかった。
*5:社会保障審議会年金部会では、【図表2】と同様の分布のほか、年金を考慮した就労の抑制が見られなかったという2014年の状況に関する研究成果や、就労について年金を考慮するか否かが拮抗する2019年のアンケート結果が示された。
3|中小企業での在職老齢年金:中堅企業を中心に、年金の減額が発生している可能性
日本商工会議所の委員は、65歳に到達する従業員が、働き続けた場合の収入と年金収入を比較して退職することが多く、経営者にとって戦力の喪失になっていると主張した。他方で、在職老齢年金(減額)の対象となるのは収入が多い場合に限られるため、中小企業で同制度の廃止の恩恵を受けるのは経営者などに限られる、という見方もある。
筆者が賃金構造基本統計調査を確認したところ、60代後半の男性の月あたりの報酬は、中堅企業(従業員100~999人)で40万円、小規模企業(同5~99人)で33万円であった。また、現時点の現役世代の報酬から厚生年金額を推計すると、中堅企業で11万円、小規模企業で10万円であった。そのため、中堅企業の男性の平均では、報酬と厚生年金の合計(51万円)が現役男性の平均的な標準報酬(2023年度は48万円)を3万円上回り、1.5万円の減額が発生するという結果になった。
正しい状況把握は厚生労働省等の分析を待つ必要があるが*6、主観的・定性的な議論だけでなく、国民が納得できるようなデータに基づく検討を期待したい。
*6:標準報酬には上限がある(月額は65万円(2020年8月までは62万円)、賞与は支給月ごとに150万円)。この影響もあり、賃金の統計を使った筆者の試算では、標準報酬を使った厚生労働省年金局の資料(図表2)と比べて報酬と厚生年金の合計の全体平均(男女・規模計)が高くなった(筆者試算は46万円、厚労省資料は33万円)。なお、この上限の影響は大企業で大きいと考えられる。また、筆者試算のような平均ではなく、【図表2】のような分布で考えることが重要である。
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