ロシアの「ナラティブ戦」に対抗する手段
渡部 情報発信が好影響を及ぼしている事例としては、ゼレンスキー大統領が世界各国の議会において演説し、ロシアへの制裁の同調とウクライナへの支援の強化を訴え、多大な成果を上げていることにも触れたいと思います。
佐々木 ゼレンスキー大統領は、西側諸国を中心に「EU議会(3月1日)」「英国(3月8日)」「カナダ(3月15日)」「米国(3月16日)」「ドイツ(3月17日)」「イスラエル(3月20日)」「イタリア(3月22日)」「日本(3月23日)」「フランス(3月23日)」「ベルギー(3月31日)」などでスピーチを行いました。
そして、当該国の琴線に触れるような内容を含んだスピーチを行うことで賛同を得ているということです。
例えば、EUでは「真のヨーロッパ人であることを証明してください」、米国では「真珠湾を、9・11同時多発テロを思い出してほしい」、ドイツでは「ベルリンの壁でなく、自由と不自由の壁に皆さんと我々は隔たれています。壁を壊してください」、日本では「侵略の津波を……。原発事故を、サリンなどの化学兵器を……」、フランスでは「自由・平等・博愛の精神で……」などの言葉を使いました。
ウクライナとして、“事実の”ナラティブを誠実に活用して、国際的な情報空間での優勢を獲得したともいえます。
やはり、事実を用いたとしても不条理なナラティブを使うロシアと、事実を用い誠実に現実を訴えるウクライナのナラティブでは受け取る側の理解は天と地ほど変わるのではないでしょうか。
渡部 佐々木さんは「事実を用いたとしても不条理なナラティブを使うロシア」と言いますが、私は、ロシアのナラティブが事実に基づいていると言い難いケースが多いから、不条理だと判断せざるを得ないのだと思っています。
井上 ウクライナや西側諸国が実施したロシアによる情報戦への対抗策で、そのほかに特筆すべきものはあったのでしょうか。