ベビーシッターによる子どもへの悪影響、祖父母の「88%」が育児に参加…。家族以外に子供を「任せられない」中国の“現状”【立命館大学教授が解説】

ベビーシッターによる子どもへの悪影響、祖父母の「88%」が育児に参加…。家族以外に子供を「任せられない」中国の“現状”【立命館大学教授が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

海外の教育制度の具体的な現状を知る機会はなかなかありません。本連載では、立命館大学総合心理学部で教授を務める矢藤優子氏をはじめ、吉沅洪氏、孫怡氏といった日中の研究者による共著『現代中国の子育てと教育:発達心理学から見た課題と未来展望』(ナカニシヤ出版)から、中国の教育制度の現状と、抱えている多くの問題について一部抜粋して紹介します。

祖父母共同育児の現状

2017年に中国上海で1歳児を持つ母親522名を対象に実施したアンケート調査(研究1)では、祖父母が完全に孫の面倒を見る家庭(祖父母育児)が26%、祖父母と両親が一緒に共同育児している家庭(共同育児)が62%、祖父母に頼らず完全に親だけで子育てしている家庭(両親育児)が12%であった(孫,2019)。

 

つまり、都市部では88%の1歳児家庭において、祖父母がある程度孫の育児に参加していることがわかる。

 

両親が仕事に出ている昼間に、祖父母に預けることが一般的であるが、両親ともに仕事が忙しく帰宅が遅い場合は、夜も祖父母が孫の面倒を見ることも少なくなかった。

 

「子どもの日常的な世話(着替え、食事、お風呂、寝かしつけなど)の主な担当者(最大3名)」を尋ねたところ、用意した選択肢の中から選ばれた割合は、それぞれ以下のとおりであった:母親(85.8%)、父親(36.6%)、父方祖父(7.9%)、父方祖母(35.6%)、母方祖父(12.3%)、母方祖母(37.4%)、ベビーシッター/育児師(7.1%)、その他(0.8%)(図1)。

 

図1 子どもの世話と教育の主な担当者(複数選択)
図1 子どもの世話と教育の主な担当者(複数選択)

 

 

図1より、母親、祖母(父方+母方)、父親と回答した割合が高かった。祖母は父方と母方両方に分けて選択肢を設けたので、それぞれ3割台であったが、合わせると6割以上となり、父親の割合を大幅に超えた。

 

一方、「子どもの教育(しつけ、勉強など)の主な担当者(最大3名)」の質問に対する回答は以下のとおりであった:母親(91.8%)、父親(62.3%)、父方祖父(8.0%)、父方祖母(23.6%)、母方祖父(9.0%)、母方祖母(27.4%)、ベビーシッター/育児師(3.4%)、その他(0.8%)(図1)。

 

教育面においても、生活面とほぼ同様に母親と父親、祖母の回答が多かったが、父親と回答した割合は両方の祖母の合計(5割)よりも高かった。

 

つまり、1歳時点では、生活面の主な担当の上位3人の順位は母親、祖母、父親だったが、しつけなどの教育面の主な担当の上位3人の順位は母親、父親、祖母であることがわかった。

 

さらに、祖父母による育児支援の具体的な内容を尋ねた項目への回答から、祖父母は主に子どもの日常の世話と家事の手伝いを担当していることが実証され、世間での認識と一致する結果となった。

 

子どもが少し大きくなると、学習面での教育は両親がより意識的にかかわっていくが、1歳時点では祖父母も日常の世話の中で、しつけやマナー、言葉などを教えていると考えられる。

 

※本稿では各調査元(研究者氏名)、調査年を()内に明記している。

 

矢藤 優子

立命館大学総合心理学部 教授

 

孫怡(そん・い)

お茶の水女子大学大学院博士後期課程修了。博士(社会科学)。立命館アジア日本研究機構研究助教。 〔本書担当箇所〕第4章

現代中国の子育てと教育:発達心理学から見た課題と未来展望

現代中国の子育てと教育:発達心理学から見た課題と未来展望

矢藤 優子

ナカニシヤ出版

幼児教育の環境、都市部の家庭養育、農村部の留守児童・流動児童、障がい児養育……。 現代中国の子育て・教育の現状と課題を、発達心理学に基づく調査により多角的・実証的に捉えた、日中の研究者らによる最新の研究成果。

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