ベビーシッターによる子どもへの悪影響、祖父母の「88%」が育児に参加…。家族以外に子供を「任せられない」中国の“現状”【立命館大学教授が解説】

ベビーシッターによる子どもへの悪影響、祖父母の「88%」が育児に参加…。家族以外に子供を「任せられない」中国の“現状”【立命館大学教授が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

海外の教育制度の具体的な現状を知る機会はなかなかありません。本連載では、立命館大学総合心理学部で教授を務める矢藤優子氏をはじめ、吉沅洪氏、孫怡氏といった日中の研究者による共著『現代中国の子育てと教育:発達心理学から見た課題と未来展望』(ナカニシヤ出版)から、中国の教育制度の現状と、抱えている多くの問題について一部抜粋して紹介します。

中国の都市部では両親と祖父母の共同育児が主流になっているが、農村部では両親が都市部へ長期間の出稼ぎに出るため、両親の不在の間は完全祖父母育児の家庭が多い。

 

農村部に残される「留守児童」や出稼ぎの親と一緒に都市部に滞在している「流動児童」の養育に関しては、本書の第7章を参考にされたい。

 

本稿では都市部における幼児の養育に着目する。

 

都市部では、3世帯同居または2世帯(核家族と祖父母)が近くに住んでいる割合が高い(Sun&Jiang,2021)。特に共働き世帯では、子どもが幼稚園に入園するまで祖父母と一緒に共同育児をするパターンが一般的である。

 

経済的に余裕がある家庭では、「祖父母+ベビーシッター/家政婦」というケースも珍しくなく、この場合、家事は家政婦に、育児は祖父母に頼むこととなる。

 

あるいは、子どもの世話は育児師に任せて、祖父母は家事をやりながら育児師の活動を監視する役割も担っている。

 

子どもが2歳以降になると、幼稚園にはまだ入れないが、早期教育に熱心な家庭では、平日の昼間(半日または一日)に子どもを民間の早期教育施設に入れて、祖父母は同行または送り迎えを担当する。

 

早期教育施設に入れなくても、親が家にいる間は、子どもとのかかわりや知育(たとえば、数、漢字など)を意識して行っている家庭もある。

 

つまり、祖父母は主に家事や子どもの日常の世話(生活面)を担当、親はしつけ・知的教育を担当するといった共同育児のパターンが最もポピュラーとされる。

 

しかし、本当にそのような状況なのだろうか。

 

現状と祖父母の育児参加による影響を把握するため,筆者の研究チームは2014年から2020年の間に、中国の大都市・上海において、「祖父母の育児参加」に関して1―6歳の幼児を持つ母親を対象に、下記の3つの大規模なアンケート調査と小規模な家庭訪問を行った。

 

収集した量的データと質的データに基づいて、中国都市部における共同育児のありようとその影響について検討した。

 

次ページ母親が91.8%、母方祖母が27.4%
現代中国の子育てと教育:発達心理学から見た課題と未来展望

現代中国の子育てと教育:発達心理学から見た課題と未来展望

矢藤 優子

ナカニシヤ出版

幼児教育の環境、都市部の家庭養育、農村部の留守児童・流動児童、障がい児養育……。 現代中国の子育て・教育の現状と課題を、発達心理学に基づく調査により多角的・実証的に捉えた、日中の研究者らによる最新の研究成果。

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