「地域の実情」に応じた医療・介護体制はどこまで可能か…審議会報告の文言から見える政府の意図と自治体の現実

「地域の実情」に応じた医療・介護体制はどこまで可能か…審議会報告の文言から見える政府の意図と自治体の現実
(写真はイメージです/PIXTA)

2024年度は医療・介護分野で多くの制度改正が予定されていますが、その文脈で多く語られているのが、「地域の実情」という言葉。ニッセイ基礎研究所の三原岳氏が「地域の実情」という言葉を使っている近年の政府文書などを取り上げるとともに、その意味を再考していきます。

1―はじめに…「地域の実情」に応じた体制整備を考える

2024年度は医療・介護分野で多くの制度改正が予定されており、2023年度は国や自治体で様々な見直し論議が展開される見通しです。具体的には、診療報酬と介護報酬の同時改定に向けた検討に加えて、都道府県が6年サイクルで見直している「医療計画」、市町村が3年周期で策定している「介護保険事業計画」の改定作業なども進みます。

 

ここで、注目されるのは「地域の実情」という言葉が政府の審議会報告などに多用されている点です。具体的には、「地域の実情に応じた在宅サービスの整備」といった言葉遣いであり、「地域の実情」という言葉は医療・介護制度を巡る一種の「流行語」(!?)となっています。

 

そこで、今回から6回シリーズで、「地域の実情」という言葉の意味を深掘りするとともに、国・自治体に問われる対応を考察します。第1回は医療・介護について、「地域の実情」という言葉を使っている近年の政府文書などを取り上げるとともに、その意味を再考します。さらに、地域の実情を踏まえないまま、制度や事業を前提に物を考える「制度頭」「事業頭」など、自治体の運用状況を取り上げます。第2回以降は「地域の実情」に応じた医療・介護の体制整備に向けて、必要な手立てを考えて行きます。

2―審議会報告書などで多用されている「地域の実情」という言葉

1|2022年12月の医療部会意見書

まず、医療・介護に関して、「地域の実情」という言葉が審議会報告などで多用されている実例を見て行きます。まず、社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)医療部会が2024年度制度改正に向けて示した意見書では、「地域の実情」という言葉が5カ所で使われており、下記のような文言が盛り込まれています(下線は筆者)。

 

• 医療機関は地域の実情に応じて、その機能や専門性に応じて連携しつつ、自らが担うかかりつけ医機能の内容を強化する仕組みとすることを基本的な考え方としてはどうか。

 

• 現在の2025年までの取組を地域の実情を踏まえつつ着実に進めるために、対応方針の策定率を目標とした PDCA サイクルの強化や構想区域の評価・分析など都道府県の責務の明確化により取組を進めるべきではないか。

 

前者は身近な病気やケガに対応する「かかりつけ医」の機能強化に絡む文言。かかりつけ医に関しては、昨年末までに見直し論議が盛り上がった末、幾つかの制度改正が決まりました*1。ここでは、都道府県が診療所や中小病院から「ウチの診療所は在宅医療を提供している」といった報告を受けた後、集まった情報をベースにして、都道府県が「A地区では在宅医療が不足している」などの形で、地域の実情を可視化することが想定されています。さらに、足りない機能に関しては、地域の官民関係者が集まる「協議の場」で対応を議論し、必要な方策を自主的に進めていくことも意識されています。この際に「地域の実情」に応じた機能強化と、それを支える国の仕組みづくりが求められると言っているわけです。

 

後者は2017年度から本格スタートした「地域医療構想」に関する部分。地域医療構想についても詳述は避けますが、人口的にボリュームが大きい「団塊世代」が75歳以上になる2025年を意識し、急性期病床の削減や在宅医療の充実など、人口減少や高齢化の進展などに応じた医療提供体制改革の推進が想定されています*2

 

しかし、日本の医療提供体制の大宗を占める民間医療機関に対し、国や都道府県は強制力を持っていないため、地域の関係者を通じた合意形成を通じて、「地域の実情」に応じた体制整備が都道府県に期待されています。ここでも「地域の実情」がキーワードになっていることを確認できます。

 

このほかにも医療部会意見書では、歯科医や薬剤師、看護師の確保に関しても、「地域の実情」に応じた体制整備が必要と訴えています。

 

*1:かかりつけ医の決着に関しては、2023年2月13日拙稿「かかりつけ医を巡る論争とは何だったのか(上)」(全2回、リンク先は第1回)を参照。

*2:地域医療構想は2017年3月までに各都道府県が策定した。人口的にボリュームが大きい団塊世代が75歳以上になる2025年の医療需要を病床数で推計。その際には医療機関の機能について、救急患者を受け入れる「高度急性期」「急性期」、リハビリテーションなどを提供する「回復期」、長期療養の場である「慢性期」に区分し、それぞれの病床区分について、2次医療圏ごとに病床数を将来推計した。さらに、自らが担っている病床機能を報告させる「病床機能報告」で明らかになる現状の対比を通じて、需給ギャップを明らかにした。その上で、医療機関の経営者などを交えた「地域医療構想調整会議」の議論を経て、合意形成と自主的な対応による見直しが想定されている。地域医療構想の概要や論点、経緯については、2017年11~12月の「地域医療構想を3つのキーワードで読み解く(1)」(全4回、リンク先は第1回)、2019年5~6月の拙稿「策定から2年が過ぎた地域医療構想の現状を考える」(全2回、リンク先は第1回)、2019年10月31日「公立病院の具体名公表で医療提供体制改革は進むのか」を参照。併せて、三原岳(2020)『地域医療は再生するか』医薬経済社も参照。

 

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    ※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年3月31日に公開したレポートを転載したものです。

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