日本企業の成長の源は「終身雇用」
米国の研究者ジェームス・C・アベグレンがフォード財団研究員として1950年代半ばから日本各地の工場を訪問し、日本企業の経営を調査した結果をまとめた書籍『日本の経営』(1958年)は、日本的経営に関する包括的学術研究の端緒とされる。日本企業の人事・労務の諸制度や慣行を取り上げ、企業と従業員の間の社会契約、年功制、企業別組合の3つを日本的経営の主要な特徴として指摘した。
その柱である企業と従業員の間の社会契約は、企業で働く全成員の経済的な安全を確保するために皆で協力するという約束を意味し、「終身の関係(lifetime commitment)」と名付けられた。この「終身の関係」が「終身雇用制(lifetime employment)」の意味で普及し、年功制、企業別組合とあわせて日本的経営の「三種の神器」と称されるようになる。
『日本の経営』は米国の研究者を主な想定読者としており、終身雇用制など日本の経営の非合理だと見える制度が、近代化、工業化という目的に照らせば合理的であることを説明している。
『日本の経営』が上梓された1958年は第二次世界大戦後の経済復興期だが、高度成長を経た1985年にアベグレンが著した『カイシャ』でも、終身雇用、企業単位の労働組合組織、年功序列型の昇級、合議制による意思決定など、「人」の側面にかかわる特徴を日本的経営として指摘している。
バブル崩壊による不況を経た2004年に上梓した『新・日本の経営』でも、アベグレンは日本企業の成長の源は終身雇用にあり、企業という共同体の長期的な維持と繁栄こそが最大の目標である、との基本認識を堅持している。トヨタやキヤノンなど経営者の「社員が優秀で会社への忠誠心が高いことが重要であり、この強みは雇用を守る会社の姿勢から生まれる」との発言が背景にあるとされる。
終身雇用以外の三種の神器のうち、年功制は大規模な再設計の過程にあり、企業内組合は労働組合自体の役割が低下したと指摘する。しかし、日本企業の経営システムの基礎にある、家族、村や隣近所と同じように「全員が公平に参加する共同体」という原理は変わっておらず、継続性、集団の団結、平等主義を重視する主要な慣行も変わっていないと論じた。
「日本型」と「米国型」の企業統治を比較
『新・日本の経営』では、さらに、企業統治について米国型と日本型を比較している。米国型の企業統治は、会社は株主の所有物だとする見方が出発点にあり、米国企業は経営陣と投資家からなる少人数の成功と短期的利益という経済的目的のために運営されている。
一方の日本企業は株主利益を主要な目的としておらず、社員が全員の共通利益のために働き、人間関係を密接にすることで不正を防ぐ方法が、日本企業の企業統治として最も効率的だと指摘する。
日本文化に基づき築かれた経営システムからの離脱は、リスクが高い
アベグレンの日本的経営論のベースには、日本の経営システムを特徴づけているのは「企業と社員との関係(人間に関する部分)」であり、人に関する制度はその国の文化に基づいてつくり維持していく必要がある、という考えが見られる。
「日本社会の基本的な価値観は二千年を超える歴史の中で培われてきたものであり、そう簡単に変わるものではないし、日本企業の人事管理制度の価値観も変わっていない」、「日本経済が成功を収めたのは何よりも、日本の文化と価値観に基づいて経営システムを築き上げたことによるものである。この基盤から離れる動きをとることは、リスクがきわめて高いことを覚悟しなければならない」と提起している。
そして、日本的経営の本質について、社員の共同体であり、共同体の全員が将来にわたって幸福に生活できるために長く生き残ることを目標とする社会システムだとする。日本的経営の特徴である終身雇用制、年功序列制に基づく昇級と昇進、そして社員全員がひとつの労働組合に所属する企業内組合、合意に基づく意思決定は、日本企業が社員の共同体であることの制度的表われだと論じている。
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