(※画像はイメージです/PIXTA)

急速なデジタル化に伴い、社会自体が大きく変化している中国。なかでも、2018年に相互監視型医療共済として登場し、3年で運用終了した「相互宝」は、現代の中国社会を表象するサービスといえます。本記事では、一時は加入者数が1億人を突破した「相互宝」が、早々に運用を終了した理由について、NTTデータ経営研究所グローバルビジネス推進センターのシニアスペシャリスト岡野寿彦氏が詳しく解説します。

「相互宝」が運用終了…理由は?

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2021年12月28日、相互宝は、会員の権利・利益を長期的に保護するため22年1月28日をもって営業を停止すること、会員保障の中断を避けるため新しい保障プランを選択できることを発表した。

 

2018年の運用開始以来1億人を超える会員が参加し、17万9127人に保証金を支払ったこと、しかし最近1年間で相互補助・監視型保険をめぐる市場環境に重大な変化が生じたことが説明された。

 

2021年4月、アント・グループへの業務改善命令として「情報の独占の禁止」、「許可を受けた機関による金融商品やサービスの提供の遵守」が示され、ネット金融事業についても既存金融機関と同様の規制を適用するとされた。

 

「相互宝」は前述のように、当初は「相互保」という名称で保険商品として当局に申請したが、保険商品には該当しないとの指摘を受け保険の「保」の文字を消去し「相互宝」へと変更した経緯があり、規制強化の中で運営の継続は難しいと判断されたと考えられる。

「相互宝」の今後と日本への示唆

「相互宝」は急拡大の一方で課題が顕在化し、政府当局の規制が強化される中で、3年で運用を終了するに至った。信用スコアが社会インフラとして定着している中国と日本とを一緒くたに論じることはできないが、日本のデジタル化への示唆を3点挙げたい。

 

(1)「自助」とデジタル化

 

「相互宝」は、中国の社会保障制度の課題を埋める形で急成長した。相互宝の公開データによると1億人の会員のうち3割が農村・郡部、6割が3級都市以下の出身者であり、価格の安さと加入の敷居の低さというニーズに合致することで、健康保障市場で一定の役割を果たしたことは間違いない。

 

今後日本においても「自助」の必要性が高まる中で、一人ひとりの個人がより多くの適切な情報を得て自衛策を講じるために、これを支援することがデジタル化の大きな意義になるだろう。一方で、健康情報という機微な個人情報を「どこまで見える化することが適切なのか」、イノベーション創出とプライバシー保護のバランスが重要な論点になる。

 

(2)商品開発における消費者の主体性

伝統的な保険商品は保険会社が設計・販売・運用しているが、「相互宝」は、消費者の相互監視による「割り勘システム」がその本質である。アント・グループは、自らの収益を「運用手数料の8%のみ」とオープンにしている。

 

今後、ブロックチェーン技術の、「改ざんに強い」、「コストが安い」といった特徴を活かした分散型管理の実用化が進む中で、「相互宝」のモデルはさまざまな応用が考えられる。相互監視の仕組みがさらに進化するとともに、商品設計における収益構造の「見える化」が進み、消費者の関わり・主体性が拡大する可能性がある。

 

(3)アプリひとつで消費がすべて完結する「スーパーアプリ」の浸透

「相互宝」の急速な成長は、中国の消費者に浸透したアリペイの存在なしにはあり得なかっただろう。アリペイやWeChatなどいわゆる「スーパーアプリ」(一つのスマホアプリ内で、サードパーティ製のさまざまなアプリを起動できる、プラットフォームとなるアプリ)が、デジタル・イノベーションをつくり出すインフラの役割を果たした事例だといえる。

 

日本ではスーパーアプリは出現しづらいと筆者は考えるが、デジタル化の推進(デジタル政策)と電子政府の構築において、さまざまなサービスをつなぎ込める消費者との接点をいかにつくるかが重要ポイントとなることが本事例から理解できる。

 

※本記事は、岡野寿彦氏の著書『中国的経営イン・デジタル 中国企業の強さと弱さ』(日経BP 日本経済新聞出版)から一部を抜粋し、幻冬舎ゴールドオンライン編集部が本文を一部改変しております。

 

 

岡野 寿彦

NTTデータ経営研究所グローバルビジネス推進センター

シニアスペシャリスト

 

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中国的経営イン・デジタル 中国企業の強さと弱さ

中国的経営イン・デジタル 中国企業の強さと弱さ

岡野 寿彦

日経BP 日本経済新聞出版

中国的経営の原理とは? 日本的経営とどう違うのか? 先進IT企業のケーススタディを通して、中国企業の「型」を解き明かし、日本企業にとっての教訓をさぐる。 なぜ中国企業は「両利きの経営」を目指すのか?  ●政府…

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