(※画像はイメージです/PIXTA)

急速なデジタル化に伴い、社会自体が大きく変化している中国。なかでも、2018年に相互監視型医療共済として登場し、3年で運用終了した「相互宝」は、現代の中国社会を表象するサービスといえます。本記事では、一時は加入者数が1億人を突破した「相互宝」が、早々に運用を終了した理由について、NTTデータ経営研究所グローバルビジネス推進センターのシニアスペシャリスト岡野寿彦氏が詳しく解説します。

急速に拡大した「相互宝」だが…明らかになった課題

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「相互宝」は、2018年に、「一人が病気になったら、皆で割り勘にする」を理念に、アント・グループを事業主体としてスタートした。2年という短期間で加入者は累計で1億人を超えた。単純に計算して、中国人の13人に1人が「相互宝」に加入したことになる。

 

アリペイ(モバイル決済)を入り口に簡単な操作で、当初の負担なしに加入できる手軽さで、低所得層や若年層が保険会社の保険商品に加入する前のつなぎのニーズに合致したことが、急拡大の要因とされる。

 

「責任準備金がない商品」であることに中国の保険会社から反発を受ける

中国の保険会社は、「相互宝」についてどのように見ているのだろうか? 実は、2018年10月のサービス開始時には、「相互保」という名称のアント・グループの金融商品ラインナップの中で保険業務をカバーする商品としてスタートした。しかし、中国金融監督当局から保険商品には該当しないとの指摘を受け、保険の「保」の文字を消去し「相互宝」へと変更した経緯がある。

 

中国の保険会社の知人に聞くと、保険会社は保険商品を販売するにあたり、顧客への保険金の支払いに備えて準備金を積み立てるが、これを行わない「相互保」が保険商品として発売されることに保険会社から反発があったとのことである。

 

加入者数が1億人を超えた「相互宝」は、保険会社としても、保障対象がかぶることもあって無視できない存在になった。同時に、次のような加入者のリスクが市場で指摘されることも増えて、保険業界関係者からは永続的な仕組みにはならないのではとの認識も聞かれていた。

 

市場で指摘された「相互宝」の2つのリスク

①会員の各期の分担金が急速に拡大

半月に一度、その期に保障金を申請して認められた総額を会員で割り勘する仕組みだが、公開されているデータによると、2019年6月上期に保障金を受け取った人数:100人、会員の分担金:0.33元/人だったのが、5ヵ月後の2019年11月上期にはそれぞれ1735人、3.03元/人と、分担金が10倍に急増している。

 

それでも年間(24期)で約100元ではあるが、発病する会員が増加、また「相互宝」を退会する会員が急増するなどの場合に、分担金がさらに増えるリスクがある。アント・グループは、顧客の不安を抑えるために、分担金は年間188元を超えない(超える場合はアント・グループが負担する)と言明したが、持続可能な仕組みなのか、懸念が持たれた。

 

②保障金支払が拒否されるケース:査定および会員による監査の仕組みが未成熟

 

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中国的経営イン・デジタル 中国企業の強さと弱さ

中国的経営イン・デジタル 中国企業の強さと弱さ

岡野 寿彦

日経BP 日本経済新聞出版

中国的経営の原理とは? 日本的経営とどう違うのか? 先進IT企業のケーススタディを通して、中国企業の「型」を解き明かし、日本企業にとっての教訓をさぐる。 なぜ中国企業は「両利きの経営」を目指すのか?  ●政府…

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