“ロシアは大国、ウクライナは小国”の「誤解」
世界の多くの人たちは、戦争が始まるまでは、「ロシアはプーチンという類い稀な戦略家が率いる大国である。ウクライナは2流の元コメディアンが率いる小国であり、ロシアは簡単にウクライナを占領できる」と誤解していました。
米国のアブリル・ヘインズ国家情報長官は5月10日の上院軍事委員会で、「プーチンはウクライナ東部ドンバス地方を制圧した後も軍事作戦を終わらせない。ロシア軍は、黒海沿岸地域を掌握し、2014年に併合したクリミア半島に対する水資源を確保するとともに、ウクライナ南西部に接するモルドバの親露派支配地域トランスニストリアへの陸路を確立することを目指している」と発言しています。
しかし、実際の戦況を観察すると、ヘインズ長官がロシア軍を過大評価していたことは明らかです。ロシア軍は、ドンバス地方の制圧はおろか、黒海沿岸地域(とくにオデーサ)の掌握もできていません。ましてやトランスニストリアへの陸路を確立することなど夢物語です。
露宇戦争の結果は、ロシアが「軍事大国」ではなかったことを露呈しています。ロシアは大国というにはほど遠く、実際には重大な欠陥があり、多くの点で弱体化している国家だったのです。
経済制裁により軍需産業に“大打撃”
露宇戦争の開始とそれに伴う西側諸国の経済制裁の結果、ロシア経済は製造業を中心に明らかに悪化しています。ロシアは、外国の技術や部品に大きく依存しているのですが、経済制裁はまさにこれらの技術や部品(とくに半導体)のロシアへの売却を禁止しています。とくに、軍需産業は大打撃を受けています。
例えば、ロシアの2大戦車製造会社(ウラルヴァゴンザヴォードなど)は戦車の製造ができない状況です。北朝鮮から数千万発の弾薬を購入するという報道は、弾薬製造企業が弾薬の緊急増産ができない状況にあることを示しています。
イランからは数百機の無人航空機(UAV:Unmanned Aerial Vehicle、いわゆるドローン)を購入していますが、これはロシア国内でUAVの緊急調達ができない情けない状況の結果です。
世界から「ならず者国家」と批判される北朝鮮やイランに依存するロシアはみじめな状況だと言わざるを得ません。
ブルームバーグが9月5日に報じたロシア政府の内部文書によると、「ロシアの景気後退は2023年に加速し、経済が侵攻前の水準に戻るのは2030年以降になる」という厳しい内容です。プーチンが普段発表している楽観的な声明とはまったく違う内容です。
また、内部文書は、「西側諸国のテクノロジーへのアクセスが制限されることで、ロシアは中国や東南アジアなどの最先端ではない代替技術に頼らざるを得ず、現行の基準より1、2世代の遅れが生じる可能性がある」「輸入について、主な短期的リスクは原材料・部品の輸入不足に伴う生産停止だ」と分析しています。
より長期的には、「輸入した装置が修理不能なことにより成長が恒久的に制限される」とし、「一部の極めて重要な輸入品について代替のサプライヤーがまったくいない」と惨憺たる状況を明らかにしています。