盛岡の「小さな町の本屋」の深イイ話…なぜ人は“ネット”で本をすぐ買えるのにわざわざ「本屋」まできて注文するのか

盛岡の「小さな町の本屋」の深イイ話…なぜ人は“ネット”で本をすぐ買えるのにわざわざ「本屋」まできて注文するのか
(※写真はイメージです/PIXTA)

本のネット通販が発達して「町の本屋」の生き残りが厳しい中にあって、岩手県盛岡市の「さわや書店」は、全国的に有名になった「文庫X」をはじめ、各種イベント企画、オリジナル商品の開発等を通じて新たな存在意義を切り拓いています。本記事では、さわや書店の外商部兼商品管理部部長である栗澤順一氏が著書『本屋、地元に生きる』(KADOKAWA)から、新時代における本屋・書店員のあり方について考察します。

書店員には生き方が問われる

人や地域とのつながりのほかに、もうひとつ大切なのは“書店で本を探す、本に出会う楽しさ”をお客さまに感じてもらうことです。

 

以前によく「さわや書店では、探している本が見つからないこともあるけど、ついつい何冊か買ってしまう」という言い方をするお客さまがいました。盛岡駅ビルフェザン店の店長だった田口幹人さんがいた頃には、「さわや書店にとって、これは最高の褒め言葉だよね」と話していたものです。

 

この頃から私たちは、お客さまの心に響く売り場づくりを意識していました。

 

目的の本が決まっているかどうかを問わず、本屋に行けば、気になるコーナーを中心にひと回りする習慣をもつお客さまは少なくありません。駅で、電車待ちの時間ができれば、とりあえず本屋に入るという方はまだまだいます。

 

そんなお客さまに「おっ」、「へえ~」と思わせられるかどうか。

 

好奇心にかられて、予定していなかった本を手に取ることは、リアル書店ならではの楽しみです。思わぬ出会いに対する期待感があるからこそ、欲しい本をネットで注文して済ませるのではなく、定期的に本屋に訪れるようにしてくれるのです。

 

在庫勝負はできなくても、お客さまの楽しみを増幅させる売り場づくりはできます。

 

私自身、その路線を追求していても大型書店には勝てないと思いかけたことはありました。しかし、あきらめてしまってはおしまいです。まちの本屋がネット書店や大型書店に対抗するには、そうした部分での工夫を怠らないようにするしかないのです。

 

ついつい買ってしまうというパターンをいかに増やすかは、書店員個人のスキルにかかってきます。私も20年以上書店員をやってきてようやく、こうした部分においては自分の世界観を反映させてもいいのだということがわかってきました。

 

お客さまの側とすれば、自分の引き出しにはないものを見つけたときにこそ、おっという喜びを感じるものです。そういう驚きを与えられる本を選び、その本を見つけてもらう演出をうまくやっていく。そのためにも書店員は、自分の世界観を広げて、スキルを磨いていく必要があるはずです。

 

いろいろな本を読むだけではなく、いろいろな人に会い、いろいろなものを見て、いろいろなものを食べる……。

 

自分の経験を積み上げていくしかないともいえます。大げさな言い方をするなら、書店員ひとりひとりの生き方が問われているのではないでしょうか。

 

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本屋、地元に生きる

本屋、地元に生きる

栗澤 順一

KADOKAWA

「待ちの本屋」から「使ってもらう本屋へ」――。今なすべきことは何か。 いずれ本屋は町から消えてしまうのか? 訪れるお客様を待つだけの商売はジリ貧のご時世。全国区の名物書店の外商員が手掛けたのは「本とのタッチポ…

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