盛岡の「小さな町の本屋」が日本全国を巻き込む「ムーブメント」を何度も起こせたワケ

盛岡の「小さな町の本屋」が日本全国を巻き込む「ムーブメント」を何度も起こせたワケ
(※写真はイメージです/PIXTA)

ネット注文で本がすぐに届く現代において、「町の本屋」が生き残る術はあるのでしょうか。岩手県盛岡市の名物書店「さわや書店」の外商部兼商品管理部部長として新聞の書評執筆、ラジオ出演、イベント企画、オリジナル醤油の開発等を通じて新たな収益源を切り拓き、地域での存在意義を創り出している栗澤順一氏が、著書『本屋、地元に生きる』(KADOKAWA)から、新時代における本屋・書店員のあり方について考察します。

「文庫X」というムーブメント

「もっと若い時に読んでいれば……そう思わずにはいられませんでした」という手書きPOPを目にされた方も多いと思います。

 

2022年の時点で、「思考の整理学」(外山滋比古(とやましげひこ)・ちくま文庫)の累計発行部数はなんと263万部。そのブレイクのきっかけになったのが、2006年に松本大介さんが書いたこの魔法のポップです。

 

既刊本を掘り起こし、スポットライトを照らす松本さんは、出版業界の関係者はもちろんのこと、お客さまからも一目置かれるようになりました。

 

松本さんはその後も数多くのPOPとともに仕掛け販売を手がけ、本店、上盛岡店(閉店)勤務後、2017年に盛岡駅ビルフェザン本館にオープンした「ORIORI」の店長に就任しました。さわや書店のエースとして、満を持して新規店の舵取りを任されたのでした。

 

また、2015年にさわや書店に入社、その翌年に「文庫X」を仕掛けたのが長江貴士さんです。活躍ぶりが特異なうえに『書店員X』(中公新書ラクレ)という著書を出したこともあり、全国的に名前を知られることになりました。

 

「文庫X」があれだけ大きなムーブメントになったことには本当に驚きました。

 

長江さんは、神奈川県で10年ほど書店員をしていたあと、さわや書店にやってきました。

 

「文庫X」は奇をてらっただけの企画ではありません。長江さんの著書によると、中身となる『殺人犯はそこにいる』については、はじめて読んだときから「1人でも多くの人に読んでもらいたい」と感じていたそうです。

 

しかし、連続殺人を扱うノンフィクションは、そもそも読む人が限定されがちなジャンルです。その部分での先入観を取り払って手にしてもらうにはどうすればいいかを考えての手法だったのです。

 

表紙を隠して、何の本かもわからない状態で買ってもらうというアイデアは誰にでも思いつけるものではなく、長江さんならではのものだといえます。

 

また、その企画にゴーサインを出したうえ、ムーブメントをつくりだしていくうえでもバックアップしていたフェザン店店長の田口幹人さんの力も大きかったのでした。

 

この企画は本来、さわや書店フェザン店から発信して、さわや書店の各チェーン店まで広がれば十分だったのに、さわや書店に限定することなく全国へと拡大しました。その過程においては田口さんが築いていた全国の書店員のネットワークが生きていたのです。

 

独自性の強い企画が成功した場合、他店には真似をされないようにガードを固めるのが普通といえるのに、田口さんは逆に、自ら働きかけて拡大を促しました。

 

特許を取れるような商品を開発していながら権利を放棄するのにも似ています。

次ページ「文庫X」に続いた企画「帯1グランプリ」
本屋、地元に生きる

本屋、地元に生きる

栗澤 順一

KADOKAWA

「待ちの本屋」から「使ってもらう本屋へ」――。今なすべきことは何か。 いずれ本屋は町から消えてしまうのか? 訪れるお客様を待つだけの商売はジリ貧のご時世。全国区の名物書店の外商員が手掛けたのは「本とのタッチポ…

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