「本のまち」だからこそ生み出せた醤油
マスコミに向けては、次のように説明しました。
「地元の醤油店、大学、官公庁、印刷会社、書店が手を組んで、岩手県の脳卒中死亡率の高さに立ち向かった醤油です。本を読むようにパッケージに書かれている効能にぜひ目を通してみてください。本のまち、盛岡だからこそ可能になった、全国で初めて書店で販売される醤油なのです」
売上げ一位になった『いわて健民』
『いわて健民』は地元メディアにずいぶん取り上げられたうえ、発売開始がお中元シーズンにも近かったこともあり、飛ぶように売れました。
2016年に表紙、タイトル、著者名を隠したミステリー小説を販売して全国的大ヒットにつなげた「文庫X」などの例もあり、さわや書店に対しては“何かを仕掛けてくる書店”というイメージが浸透しています。だからこそ、本屋の店頭で醤油を販売するといった型破りのことにも抵抗をもたれなかったのだと思います。
このときは、『いわて健民』のほかに健康書や料理書を並べてフェアを開催しました。
パッケージの開発段階から私は、フェアをやることを前提に減塩醤油と並べて売るのにふさわしい書籍の選定を進めていたのです。
このフェアを開催したことで、さわや書店は「健康」に関してもお客さまに提案できる書店だというイメージを打ち出せたのではないかと思います。
誤算だったのは、『いわて健民』と並べて売り出そうとした健康書や料理書がほとんど売れなかったことです。お客さまは最初から話題の醤油の購入を目的にしていたので、本とのセット買いにしようと考える人はいなかったのでした。
それがわかると早めに切り替えて、POPも作り直し、『いわて健民』単独で売るようにしました。
店頭で醤油だけを売っているのでは、それこそ何の店なのかもわからなくなります。それでも、それもさわや書店らしいやり方だと割り切ることにしました。
その後も『いわて健民』はよく売れました。さわや書店全店の売上げランキングに当てはめると並みいる話題書を押しのけ、一位になるほどの売れ行きになったのです。
本よりも売れてしまっていいのかはともかく、独占販売できるオリジナル商品を開発して、ヒット商品を送り出せたのは事実です。
ふだんは書店に足を運ぶことがない年配の人などにも店に来ていただくことにつながったので、さわや書店にとっても意味がある企画になったのでした。
私が醤油づくりに関わっていたことについては、さわや書店の赤澤会長に対しては完全な事後報告になりました。新聞に取り上げてもらえるのがわかった段階で、記事が出るより先に言っておく必要があると考え、はじめて会長に話しました。
どういう反応を返されるかは不安だったものの、会長の度量は大きかったのでした。私を咎めることもなければ、驚いた様子も見せずに、ただこう言ってくれたのです。
「わかった。売れるといいな」
栗澤 順一
さわや書店
外商部兼商品管理部部長
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