亡き人の財産は、遺言がないと法定相続分で相続される
人が亡くなると「相続」が発生します。財産を誰に相続させるのかは、亡くなった方の希望に沿うべきだと思いますが、きちんとした遺言がないと、亡くなった方の希望がわからないことから、争いになりかねません。
そこで、法律は「遺言」という形式を定めていて、それに従って書かれた文書が残っていれば、原則としてその内容を尊重しよう、ということになっています。
遺言がない場合には「法定相続分」というものが定められているので、それに従って遺産の分割がおこなわれることになります。配偶者がいなければ子が、子もいなければ親が、親もいなければ兄弟姉妹が相続します。
配偶者がいる場合、子がいれば配偶者と子が半分ずつ、子がいなければ配偶者が3分の2で親が3分の1、親も子もいなければ配偶者が4分の3で兄弟姉妹が4分の1を相続します。
ここで「配偶者」というのは、形式的な婚姻関係で判断されます。「内縁の妻(夫)」はまったく相続できず、反対に、離婚さえしていなければ夫婦関係が完全に破綻していても法律通り相続されてしまいます。
「庶民の相続」のほうが、むしろ熾烈化しやすい
「相続(争続・争族)は、大金持ちのことであって自分たち庶民には関係ない」と考えている人も多いようですが、実際はそうでもありません。
「長男は高卒で働いたのに、次男は大学を出してもらったから、長男のほうが大学の学費分だけ多く相続すべきだ」
「同居の長男嫁が義父を介護したのだから、長男は多めに相続すべきだ」
などの「セコい争い」が多いようです。大金持ちは、そんなことで争いませんから(笑)。
自分が永眠したあとで、子どもたちが争族バトルを繰り広げるのは望ましいことではありませんから、しっかりと遺言を書いておきたいものです。
上記の例では「高卒の長男に500万円多く相続させる」「介護してくれた長男の配偶者に500万円を遺贈する※」などとしておけばよいでしょう。
※ 法廷相続人以外の人に相続させる場合は遺贈と呼びます。
遺言の作成は、さほど難しくないが…
遺言には種類がありますが、いちばん簡単なのは「自筆証書遺言」です。誰に何を相続させるのか、といった内容を全部自筆で書くこと、日付と住所と名前を書いて押印すること、それだけです。
書くのが簡単なうえ、気が変わったらいつでも書き直すことができるのですから、とりあえず書いてみましょう。書いたら、誰も見つけてくれないリスク、誰かが破り捨てたりするリスク等を避けるため、書いた遺言は「法務局」に預かってもらうとよいでしょう。
少なくとも、専門家に中身をチェックしてもらうと安心でしょう。たとえば日付が漏れていて遺言が無効になり、遺言者の意思が遺産分割に反映されない、といったことが起きると悲しいですから、それを避けるためには僅かな費用を惜しむべきではないと思います。
注意すべきなのは「遺留分」という制度です。遺言に「全額を愛人に遺贈する」といった遺言を書いても、配偶者等は「自分にも少しはよこせ」と主張する権利があるのです。
これを尊重しない遺言を書くと、あとで揉めごとになる可能性が高いですから、「法定相続人には法定相続分の半分を相続させ、残りは愛人に遺贈する」といったあたりが無難だと思います。そのあたりも専門家に見てもらうとよいでしょう。
自筆証書遺言をきちんと書く自信がない人には「公正証書遺言」という方式もあります。これは「公証人」が遺言を作ってくれるので、いろいろな面で安心です。若干費用はかかりますが、安心には代えられない、という場合もあるでしょうから。
借金や隠し子等の伝えにくい情報も、正確に伝えよう
借金や隠し子の存在は、生きている間は家族に知られたくないでしょうが、遺言にはしっかり書いておきましょう。とくに多額の借金を抱えている場合には、明記しておく必要があります。
「相続放棄」という制度があり、相続人の借金が財産より多い場合などには、相続人が相続を放棄することができるのです。もっとも、これには注意すべきことがあります。
ひとつは、「相続の開始があったことを知ったときから、3ヵ月以内に放棄する必要がある」ということです。したがって、相続人が借金の存在をしらずに3ヵ月過ぎてしまうリスクを避ける必要があるのです。
もうひとつは、自分が相続を放棄すると、その分の負担がほかの法定相続人にのしかかる、ということです。そんなことになったら、どんな恨みを買うかわかりませんね。したがって、相続を放棄する場合には、法定相続人が全員一斉に放棄することが望ましいでしょう。
借金と同様に、他人の借金の保証人になっている場合にも、遺言に明記しておく必要があるでしょう。債務者が払えなければ自分の相続人が払わされるわけですから、それを避けるために相続人が相続の放棄をするか否か、検討する機会を与える必要があるからです。
本稿は以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密でない場合があり得ます。
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塚崎 公義
経済評論家
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