(※写真はイメージです/PIXTA)

「相続税も大増税の時代!」「これまで無関係だった人にも課税の必要性が!」等の報道で、高齢の老親がいる、あるいは自身もそろそろ70代といった方々に、不安が広がっているようです。ところが、せっかく対策しても「やるんじゃなかった」「相続税を払った方がマシだった」という、残念な結果になる人もいます。どんな点に注意が必要なのでしょうか。FP資格を持つ経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

原則的に、庶民に「相続税」は無関係

どんな金持ちでも相続を3回繰り返すと財産がなくなる、といわれることがあります。相続税は累進課税ですから、富裕層の税率は高いので、そうしたことが起こり得るわけです。

 

そこで、相続税を減らそうと考える人が多いようで、それを狙って節税商品を売り込む人も多いようです。

 

しかし、庶民には原則として相続税は関係ありません。相続財産が数千万円であれば、相続税はほとんど気にする必要はありません。「上級庶民」でも、相続税率はそれほど高くありません。

 

相続財産が1億円程度であれば、相続税は最大でも遺産の1割強ですし、相続財産が2億円程度の「上級庶民」でも、相続税は遺産の1割から2割強といったところです。そして、配偶者がいると相続税は大幅に減りますし、子など法定相続人の数が多い場合にも相続税額は減ります。

 

それでも節税したいという上級庶民は、節税対策をすればよいと思いますが、後述のように暦年贈与等で十分でしょう。

 

実際には、相続税は累進課税であるため、限界税率はもう少し高いかもしれませんが、配偶者がいれば、あるいは相続人が複数であれば、上級庶民でも限界税率はそれほど高くなので、過度な懸念は不要だと思います。ちなみに限界税率というのは、相続財産が100円増えたら相続税が何円増えるか、という計算結果のことです。

 

相続税の計算方法は結構複雑ですが、計算ソフトがインターネットで簡単に利用できますから、一度計算してみてはいかがでしょうか。

相続対策は「リスク・コスト・節税額」を比較しよう

相続税対策として、さまざまな商品を売っている業者がいます。たしかに節税にはなるのでしょうが、リスクやコストと節税額をしっかり比較することが必要です。

 

庶民は、そもそも相続税対策は不要な場合が多いでしょうし、上級庶民も相続税対策のメリットが小さい一方で、結構なコストやリスクを負担することになりかねませんから、慎重に検討しましょう。

 

相続税対策としては、貸家の建設を検討する人も多いようですが、人口が減少していくことが確実な国で貸家を建設するのは、よほどの都心部等でない限り、空き家リスクが大きいでしょう。

 

貸家建設の勧誘を行なう建設会社が家賃保証をしてくれるという契約もあるようですが、現在の家賃を将来にわたって保証する、というものではない場合が多いようです。周辺に空き家が増えて周辺の家賃が下がってくれば、周辺家賃並みの家賃しか保証してもらえない、ということだと、リスクは残りますね。

 

それ以前に、自宅と貸家を持つことは、資産に占める不動産の比率が極端に高くなるため、「分散投資」の観点から問題だ、といった意識も必要でしょう。

 

生命保険の死亡保険金には、一定の金額までが相続税の非課税枠となる税制上の優遇措置がありますから、これを目的に生命保険に加入する、という人もいるかもしれません。

 

しかし、自分が死んだときの相続税を気にするのは高齢者でしょうから、「自分が死んでも路頭に迷う人はいない」ということでしょうし、そもそも相続税を心配するような人が死んだら遺族は遺産がはいるので路頭に迷うことがありません。つまり、生命保険本来の機能にはまったく興味が無いのに節税目的だけで加入する、というわけですね。

 

自分が生きている間にインフレが来て高金利時代となり、「国債を買えば高い金利がもらえたのに、生命保険は金利を払ってくれない」といったことも起こり得ますし、生命保険は途中で解約すると払い込んだ金額よりずっと少ない額しか戻らないこともあるようです。

 

外貨建て保険の場合には、契約中にドル安円高が進んで為替レートで損をする可能性も小さくありません。

 

その辺りのこともしっかり考えた上で、それでも相続税対策をする必要があるほど自分の相続税率が高いのか否か、冷静に検討してみる必要があるでしょう。

上級庶民は「暦年贈与」等で事足りる

上級庶民の相続税対策としては、子どもたちの生活費の支援と暦年贈与が強い味方となります。

 

まずは、子ども達の生活費を支援することで相続財産を減らしましょう。子ども達の生活費を支援するのは、通常の日常生活の費用であれば、贈与税の課税対象とならないからです。

 

その上で、暦年贈与等も活用すればよいでしょう。家族に毎年110万円ずつ贈与することで、相続財産を減らせばよいのです。贈与税は、毎年110万円までは無税ですから、たとえば家族3人に10年間贈与すれば相続財産が3300万円減ります。上級庶民としては、この程度で十分でしょう。

 

気をつける必要があるのは、税務署から「10年前に1100万円の贈与をする契約をして、10年かけて実行したのだろう」といわれないようにすることです。それを避けるために、毎年贈与契約書を締結することに加えて、毎年111万円を贈与して贈与税を1000円支払っておく、という人もいるようです。毎年少しずつ贈与の金額や時期を変えると安心だ、という人もいます。そうした工夫で課税されるリスクが減るなら、検討の価値はありますね。

迷ったら、手数料を払って専門家に相談しよう

遺産総額が数億円以上の富裕層は、税理士等と相談してしっかりした相続税対策を講じるメリットが大きいでしょうから、その一環として節税商品を利用すべきか否かを含めて税理士等に相談してみればよいでしょう。

 

「上級庶民」も、専門的なことはわかりにくいでしょうから、専門家に相談してみる価値があるかもしれません。その際、無料で相談に応じてくれる専門家は、自分の販売する節税商品を紹介することに熱心だったりしかねませんから、手数料を払って利害関係の無い専門家に相談をした方が結果的に安上がりだった、ということもありそうなので、その点も要検討ですね。

 

病気になったときに、自分で医学書を調べるよりも医師に診てもらう人が圧倒的に多いでしょう。それと同じことで、プロに謝礼を払ってアドバイスを受けるということを、他の分野でも検討してみるとよいかもしれません。

 

ちなみに、筆者は所得税の確定申告を税理士に依頼していますが、筆者の知らないことを色々教えていただいたりして、支払っている謝礼以上に助かっています。日本人には「情報は無料だ」と考えている人も多いようですが、筆者が金を払って得ている情報は、払った金額以上のものをもたらしてくれているわけです。

 

 

本稿は以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密でない場合があり得ます。

 

筆者への取材、講演、原稿等のご相談は「幻冬舎ゴールドオンライン事務局」までお願いします。「幻冬舎ゴールドオンライン」トップページの下にある「お問い合わせ」からご連絡ください。

 

 

塚崎 公義
経済評論家

 

【関連記事】

税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】

 

恐ろしい…銀行が「100万円を定期預金しませんか」と言うワケ

 

親が「総額3,000万円」を子・孫の口座にこっそり貯金…家族も知らないのに「税務署」には“バレる”ワケ【税理士が解説】

 

「儲かるなら自分がやれば?」と投資セミナーで質問すると

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録
会員向けセミナーの一覧