(※画像はイメージです/PIXTA)

通信インフラ市場において世界的なシェアを誇るHUAWEI(ファーウェイ)ですが、創業当初は、農村の電気局だけが顧客でした。そんなファーウェイはなぜ世界で知られる企業にまで成長することができたのでしょうか? 詳しくみていきます。

ブランド力の強い海外メーカーが参入するも…生き残れたワケ

ファーウェイの成長過程に関する下記の説明は、ファーウェイ社OBなど同社関係者、通信業界関係者などへのヒアリングに基づく。また、Vincent Ducrey 著『華為伝』(民主与建設出版社、2020年)、田濤、呉春波著、内村和雄監訳『最強の未公開企業 ファーウェイ:冬は必ずやってくる』(東洋経済新報社、2015年)を参考とした。

 

ファーウェイは1987年に、経済特区として成長しつつあった広東省深圳市で、通信設備の代理販売を事業として創業した。

 

扱っていた香港製品の供給が不安定で、メンテナンスも困難だったこと、中国国内に400以上の同業他社がいて特徴を出すのが難しかったことから、創業者の任正非氏は自社製品を開発しないと顧客に良質のサービスを提供することができないと考えるに至った、1989年、自社での製品開発を決断した。技術も人材もない中、小規模な病院などで用いる小型電話交換機「BH01」を開発した。

 

ただし、ファーウェイの自主技術はなく、部品を国有企業からの供給に依存したため、市場の需要があっても生産できないなどの問題が発生した。そこで1990年に中核部品を自主開発する決断をした。1年以上を要して、電気回路とソフトウェアの開発を行い、これを組み込んだ小型交換機「BH03」を開発した。

 

(※画像はイメージです/PIXTA)
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

この当時、中国の通信機器市場は欧米、日本などの外国メーカーが占めていた。ファーウェイの機器は市レベルの電話局にも入ることができず、外国メーカーが手を出しづらい農村の電話局を顧客とせざるを得なかった

 

筆者の経験でも、中国政府機関の調達担当者は、選定した機器に問題が生じて責任を問われることを回避するために、実績、ブランドがある製品を選ぶ傾向が強い。

 

新興の小会社であるファーウェイが開発した交換機が選択されづらかったことは容易に想像できる。ファーウェイの初期段階の戦略について「農村から都市を包囲」と称されることもあるが、そこにしか参入できる市場がなかったというのが実態である。

 

当時の農村はインフラや衛生環境も劣悪で、電力も不安定だった。局内のネズミが回線をかじって切れてしまうようなことも珍しくなかった。このような環境に応じた製品の開発・改良を行って顧客の評価を得たことが、創業期にファーウェイが生き残った最大の要因といえる。

 

販売後のサービスで顧客の評価を得て事業拡大できたという体験が、その後の事業展開で活かされた。ファーウェイは部品とソフトウェアの品質向上に投資を続け、中型交換機「HJD-04」は20年近く販売された。そして、交換機の品質の安定を踏まえて、1992年にファーウェイは通信会社向け市場への参入を決断した。

 

農村の電話局や病院・企業向け交換機は単価も安く調達頻度も高くなかったのに比べて、通信会社向けは単価・調達量からより大きな市場である。1993年に電話局にデジタル交換機を納入することに成功し、通信会社向けの設備運営業務はファーウェイの主要事業となった。

 

このように創業期のファーウェイは、自主研究開発の文化を根付かせながら、より魅力的な市場へのシフトを進め、通信会社向け事業にポジショニングした。

 

(出所)ヒアリングに基づき筆者作成。
[図表2]ファーウェイの事業進化と組織マネジメント変革のプロセス (出所)ヒアリングに基づき筆者作成。

 

創業期の人材探しは社長自ら…高報酬+大胆な授権で人材の定着を図る

 

創業期のファーウェイは、任正非氏自ら優秀な人材を探し求めて奔走した。通信機器の研修会に参加した技術者を口説き落として入社させ、さらにその社員が春節で帰郷する際に同窓生を勧誘させたという。

 

例えば、輪番CEOになった郭平氏は、華中科技大学の院生としてファーウェイを見学した際に、任正非氏から熱心な誘いを受け、その熱意と抱負に動かされて入社を決意した。郭平氏は同級生の鄭宝用氏(初期の交換機の研究開発責任者)を誘って入社させている。

 

任正非氏は、採用した技術者への尊重を形に表すために、他社と比べて高額の報酬を支払った。これが人材への求心力となった。さらに、社員持ち株制度などの制度化と企業文化づくりを進め、人材の定着を図った。

 

創業期のファーウェイは大胆な授権が行われ、進捗報告会議なども開催されなかったという。任正非氏は「一江春水向東流」(2011年に公開した文章)で、創業当時の組織マネジメントについて、「技術がわからないので社員の自主性に任せるしかなかった」と述べている。人事評価も当年度の実績ではなく社員の潜在的能力に基づく「あいまいな評価」で、給与アップが頻繁に行われていた。

 

創業期に参画した人材の多くがその後のファーウェイの主力幹部となった。2022年3月時点の董事会メンバー17人のうち、郭平、徐直軍、胡厚崑、徐文偉、丁耘、孟晩舟、余承東の各氏(任正非氏を加えると合計8人)は創業当初に採用した人材である。

 

資金、技術、人材のいずれも乏しかったファーウェイが生存し成長市場にポジショニングできたのは、創業者である任正非氏のリーダーシップを抜きには語れない。

 

 

岡野 寿彦

NTTデータ経営研究所グローバルビジネス推進センター

シニアスペシャリスト

 

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※ ファーウェイのミッション
Huawei’s mission is to bring digital to every person, home and organization for a fully connected, intelligent world.

To this end, we will:
・Drive ubiquitous connectivity and promote equal access to networks to lay the foundation for the intelligent world
・Provide the ultimate computing power to deliver ubiquitous cloud and intelligence
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中国的経営イン・デジタル 中国企業の強さと弱さ

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岡野 寿彦

日経BP 日本経済新聞出版

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