●FRBは25bpの利上げを決定、米国の銀行システムは健全で強固と述べ、インフレの抑制を優先。
●声明の一部修正などで利上げ終了間近との見方もパウエル議長は必要なら更なる利上げを示唆。
●米市場は同日のイエレン発言などにも警戒、金融不安が残るなかしばらく不安定な状況が継続か。
FRBは25bpの利上げを決定、米国の銀行システムは健全で強固と述べ、インフレの抑制を優先
米連邦準備制度理事会(FRB)は、3月21日、22日に米連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標について、4.50%~4.75%から4.75%~5.00%へ引き上げることを決定しました。米国内で銀行の経営破綻が相次ぎ、金融不安がくすぶるなかでも、インフレ抑制が優先される格好となりました。以下、今回の決定内容を詳しくみていきます。
まず、FOMC声明では、雇用と物価の強さに言及した後、銀行システムは「健全で強固」と評価した一方、「最近の動向は、家計と企業の信用状況を引き締め、経済活動、雇用、インフレに影響を及ぼす」可能性を指摘しました。ただ、その影響の度合いは「不透明」とし、インフレのリスクを注視する姿勢を示しました。そして、先行きは、「いくらかの追加的な引き締め(some additional policy firming)」が適切かもしれないとの見解を示しました。
声明の一部修正などで利上げ終了間近との見方もパウエル議長は必要なら更なる利上げを示唆
なお、先行きの金融政策について、前回1月会合の声明では、「目標レンジの継続的な引き上げ(ongoing increases in the target range)」が適切との見方が示されていました。また、メンバーが適切と考える「政策金利水準の分布図(ドットチャート)」において、2023年末のドット中央値は5.125%と、12月時点から変わりませんでした(図表1)。これらの点から、利上げは最終局面に近づいたとの声も市場で聞かれます。
そして、パウエル議長は記者会見で、今回の会合前に「利上げ停止の可能性も議論した」ものの、雇用とインフレが「想定以上に強かった」ため、利上げを決めたと説明しました。また、米銀破綻など、過去2週間の出来事は、「利上げと同じ効果、あるいはそれ以上の効果がある」ため、FOMC声明の一部文言(前述の「いくらかの追加的な引き締め」)を変更したと述べましたが、「必要であれば、さらに利上げをする」と強調しました。
米市場は同日のイエレン発言などにも警戒、金融不安が残るなかしばらく不安定な状況が継続か
弊社は今回、利上げ見送りの可能性を考えていましたが、改めてインフレ抑制に対するFRBの強い姿勢が確認されました。なお、FRBのバランスシートは直近で拡大していますが、パウエル議長はこれについて、「銀行への一時的な融資によるもの」で、「金融政策のスタンスを変えることを意図していない」と話しました。FRBはこの先、引き締め方針を維持しつつ、与信環境をにらみながら、政策の舵取りをしていくとみられます。
3月22日の米国市場では、主要株価指数が下落し、国債利回りは低下(価格は上昇)、ドル円はドル安・円高に振れました(図表2)。これらは、同日のイエレン米財務長官の発言(銀行預金の全面的な保険や保証に関することは検討も議論もしていない)などにも影響を受けたとみられますが、このような動きからも、まだ金融不安は払しょくされていないと推測され、金融市場全般に、今しばらく不安定な状況が続く可能性が高いと思われます。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『2023年3月FOMCレビュー ~「追加利上げ」でインフレ抑制を優先【ストラテジストが解説】』を参照)。
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフマーケットストラテジスト