●米金融当局は迅速に対応、流動性供給と状況に応じた預金保護で金融不安払拭に努めている。
●スイス金融当局も金融危機回避のため大型再編を主導、主要6中銀は協調し米ドル供給強化。
●金融不安は徐々に落ち着く可能性も、信用状況次第で景気減速懸念が残り株価などに影響か。
米金融当局は迅速に対応、流動性供給と状況に応じた預金保護で金融不安払拭に努めている
米金融市場では、3月8日の米シルバーゲート銀行の自主清算発表や、3月10日の米シリコンバレーバンク(SVB)破綻などを受け、金融不安が一気に広がり、リスクオフ(回避)の流れが強まっています。そこで、今回のレポートでは、ここ2週間ほどで発生した金融機関を巡る主な動きと、それに対する当局の施策をまとめ(図表)、この先はどのような点に注意すべきかを考えます。
米国のケースで特筆すべきは、金融当局の対応の早さです。米財務省、米連邦準備制度理事会(FRB)、米連邦預金保険公社(FDIC)は3月12日、SVBなどの預金の全額保護を発表し、FRBは新たな流動性対策を公表しました。また、イエレン米財務長官は21日、中小規模の金融機関が経営難に陥った場合、預金者を保護する意向を示すなど、金融当局は「流動性供給」と、状況に応じた「預金保護」により、金融不安の払拭に努めています。
スイス金融当局も金融危機回避のため大型再編を主導、主要6中銀は協調し米ドル供給強化
スイスのケースでも、金融当局の迅速な対応がみられました。スイス国立銀行(中央銀行)とスイス金融市場監督機構(FINMA)は3月15日、連名で声明を出し、業績不振が続く金融大手クレディ・スイス・グループに対し、必要があれば資金供給で支援すると表明しました。その後、19日には、金融機関最大手UBSがクレディ・スイス・グループを買収すると発表、金融危機回避のため、スイスの金融当局が大型再編を主導した形となりました。
そして、FRBなど日米欧の6中銀は、19日の買収発表直後、協調して米ドル供給を強化することを明らかにしました。なお、クレディ・スイス・グループが発行した劣後債の一種である「AT1債」は、買収にあたり価値がゼロとなったことを受け、欧州中央銀行(ECB)など欧州の金融監督当局は20日、域内市場でのAT1債を巡る動揺を抑制すべく、「最初に株式で損失を吸収した後にのみ、AT1債の評価減が求められる」との声明を出しました。
金融不安は徐々に落ち着く可能性も、信用状況次第で景気減速懸念が残り株価などに影響か
米欧金融当局および日米欧6中銀による迅速かつ積極的な対応により、米国発の金融不安で信用収縮が発生し、世界的な金融危機に発展する恐れはかなり小さくなったと思われます。それでも、米国の大手行や主な地銀で構成されるKBWナスダック銀行株指数は、3月7日から23日まで25.5%下落し、依然下げ止まる様子がみられず、市場に金融不安は残っていると推測されます。
ただ、各国金融当局の施策が奏功し、この先、連鎖的に金融機関の問題が浮上しなければ、「金融不安」自体は数週間で徐々に落ち着くことが予想されます。しかしながら、家計や企業の信用状況が引き締まった状態が続けば、景気減速の懸念は残ります。実際の景気への影響は、今後の経済指標を待たざるを得ませんが、それが確認されるまで、総じて米国株の上値は重く、米国債利回りは低位で推移する展開も見込まれます。
(2023年3月24日)
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『アメリカ「金融不安」発生から2週間…ここまでの経緯とここからの焦点【ストラテジストが解説】』を参照)。
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフマーケットストラテジスト