避けられなかった「二重の金利上昇リスク」
SVBは、金利上昇に脆弱な顧客基盤=負債と、金利上昇に脆弱な資産を保有していたという点で、二重の金利上昇リスクを背負い、金利上昇で破綻した。
顧客基盤と資産が分散されていない類似銀行では同様の懸念が生じる。今後、両者が十分に分散されている銀行については、通常の景気後退のなかでの不良債権の積み上がり→引き当ての増加→業績の悪化といった流れをたどると考えられる。
2023年3月8日水曜日に、(暗号資産取引所企業が主な顧客であり、FTXの破綻後に預金流出が拡大していた)シルバーゲート銀行が自主閉鎖を決定した。同日に、SVBフィナンシャル・グループは18億ドルの有価証券売買損失の計上と、22億5,000万ドルの増資計画を発表。
翌9日木曜日にSVBから420億ドルの預金が流出。10日金曜日の西部時間午前9時前に、SVBフィナンシャル・グループはカリフォルニア州当局から事業停止の命令を受け、SVBは米連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に置かれた。
同日の米国株式市場では、類似行のいくつかも大幅下落して取引停止になり、KBW銀行株指数は1週間で15.7%の大幅下落となった。
米国時間12日日曜日に、米連邦預金保険公社(FDIC)、米財務省および米連邦準備制度理事会(FRB)は共同声明を出し、①SVBの預金が(25万ドルを超える預金保険による保証対象外の部分≒預金の9割超を含め)全額保護されると発表した。
合わせて、➁ニューヨーク州のシグニチャー銀行(資産規模で全米29位;暗号資産関連企業が主な取引先のひとつ)も閉鎖、FDICの管理下に置かれ、同行の預金も全額保護されると発表された。
同時に、FRBは、預金取扱機関(=銀行)向けの資金融資プログラムBTFPを創設し、銀行が保有する米国債などの優良資産を担保に額面の金額を貸し付けると発表した。
この制度は、SVBなどと同様に、銀行で預金流出が生じても、保有資産を(損失覚悟で)売却せずに、FRBから預金解約に充てられる資金を調達することができる制度である。これにより、実際の預金流出に対応できるとともに、可能性のある預金流出や特定の資産の「投げ売り」を防ぐことができる。
カリフォルニア州のファースト・リパブリック銀行(プライベート・エクイティ・ファンドやベンチャーキャピタルが主な取引先のひとつ)が、FRBや大手行などから追加の与信枠を確保したと発表。同行の店頭では、11日土曜日に顧客が預金の引き出しで列を作っていた。
重見 吉徳
フィデリティ・インスティテュート
首席研究員/マクロストラテジスト
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