SVBが陥った「負のサイクル」
住宅ローンを抱える家計や、銀行から資金借り入れをしている企業を想像すればわかるように、通常の銀行業務では、家計や企業はいくばくかの預金を持っているが、それを大きく超える借り入れを銀行から受ける状況になっている。
→それが普通です。(逆に、たとえば、学生やリタイア世帯のように、銀行に預金だけを持っていて、借り入れを受けていない主体からは銀行は「稼げない」ので、そうした主体は銀行業務にとっての主たる顧客とはいえない)
言い換えると、銀行業務の本流は「融資しますよ、なので、口座を開設してください」というものである。銀行は、開設された家計や企業の口座に、融資を実行する。これは預金通帳に「預金:〇億円」と書き込むだけで済む※。これが信用創造であり、信用創造こそが、銀行の収益源である。
※ その資金が即座に引き出されても、融資を受ける理由はなにかを購入するためであり、そのなにかが購入されることでどこかの銀行が決済代金を受け取り、その分、銀行では資金が余ります。その余った資金は翌日物市場を通じて、融資を実行して資金が引き出された銀行に貸し付けられます(≒戻されます)。結果として、資金の過不足は銀行システム全体では生じません。
しかし、SVBの場合には、この流れではなかった。
1.顧客は(先の例でいう学生やリタイア世帯のように)預金は入れてくれるが、資金需要がない主体がほとんどである。
2.加えて、ほとんどの顧客は企業である。
3.加えて、そのほとんどの顧客は低金利で資金を手にしたスタートアップ企業やベンチャーキャピタルである。
以上の3点が、SVBや類似銀行と、一般的な商業銀行の顧客ベースとの違いである。結果として、上記1~3に対応させて書くと、
1.SVBは、融資先があまりなく、米国債やMBS(住宅ローン担保証券)、地方政府債に偏って投資をすることになった。そして、金利上昇で資産に含み損が生じた。
→通常の銀行のように、「クレジット・リスクとデュレーション・リスクのあいだでの分散が効いている」ということがなかった。保有有価証券は、SVBの総資産の約57%を占める。大手行のバンクオブアメリカは同28%。→いずれも2022年末の数値。
2.FRBの利上げにそって、企業向けの預金金利を引き上げる必要が生じ、負債の保有コストが上がった。
→通常の銀行のように、「預金のベースは個人まで分散されているために、個人からの預金の部分については、企業に比べ、預金金利の引き上げが緩くて済む」といったことがなかった。SVBの有利子預金口座全体の平均利率は1.13%、大手行のバンクオブアメリカは同0.38%。→いずれも2022年の平均値。
3.FRBの利上げによって、投資家は(1年物の米国債でも高い利回りが得られるので)ベンチャーキャピタルに資金を流さなくなり、ベンチャーキャピタルからスタートアップ・テック企業への追加資金も減り、スタートアップ企業はそもそもキャッシュフローを生まないので、給与支払いなどで預金の引き出しが増えていった。
SVBから預金が流出し、SVBは(預金よりも金利がはるかに高い)銀行間借り入れ=ホールセール・ファンディングに依存するようになった。
→通常の銀行のように、「預金のベースは、さまざまな売り上げを持つビジネス、さまざまな所得を持つ個人に分散されているために、金利を上げ下げに関わらず、預金は歩留まりする」といったことがなかった。
まとめると、
1.資産サイドでの含み損拡大
2.負債サイドでの資金調達コストの増加
3.負債サイドでの預金の流出→銀行間借り入れ=ホールセール・ファンディングの拡大→資金収支の逆ザヤ
が生じ、SVBの財務は脆弱になった。おそらく、銀行間借り入れの増加を通じて、他行には、SVBが資金繰りに窮していることが明らかであったはずである。