不安を煽りすぎては逆効果になる
■危機意識の語りの留意事項
ここで危機意識の語りを構成する際の留意事項をいくつか紹介しておきます。
(1) リアルで具体的な悪い事実・予想の提示では、数値を入れる
リアルで具体的な悪い事実・予想の提示では、必ず何らかの数値を入れるようにします。例えば「売上が減る」といっても、10%なのか、30%なのか、50%なのかでインパクトが全然違います。単に言葉だけだと、悪さ加減が分かりませんので、それを数値で示すことで、悪さ加減が分かるようにします。
ただし、恣意的に悪い数字を出して、「えっ! 本当か?」と疑われたり、また、逆に不安を煽ったりしないように気をつけましょう。
(2)納得性のある分析
2つ目の納得性のある分析では、(1)のような事態がなぜ起こったのか、またこれからなぜ起こりそうなのか、その原因分析を、論理的または定量的に行う必要があります。悪くなった、または悪くなりそうな原因が分からないと対策の打ちようがありません。
(3)話し手の危機感(感情)が言葉(声)に現れている
人間、感情は声に表れますから、語り手は、自分がやばいと思っている気持ちを込めて話す必要があります。例えば、同じ「大変だ」という言葉を、感情を込めて言った場合と感情込めずに言った場合とで比較してみてください。感情の籠っていない言葉は、嘘っぽく聞こえます。
(4)聞き手に当事者意識を持たせる
聞き手には、自分と関係があることだということで、当事者意識を持ってもらう必要がありますが、(1)や(2)で述べたことと、充分関係性のあることで当事者意識を持たせないと、繋がりが弱くなります。
(5)どう考え、行動したらよいのかの方向付け
ここでは、聞き手にどういう意識をもって、どう行動したらよいかを伝える大切な部分なので、(1)(2)(4)で述べたことと、論理的に繋がっていなければなりません。また、それは聞き手の人たちが本来行わなければならない業務と関係性がある必要があります。
この危機意識の語りは、問題解決法の考え方のロジック、すなわち、悪い現実→原因分析→課題設定→解決策立案→施策立案という考え方の道筋が背景にありますので、問題解決法の考え方をよく分かった上で、話を組み立てることをお勧めします。
後日談となりますが、パナソニックの場合にはその後テレビの大画面化を見込んで、尼崎に巨大なプラズマテレビの工場を建設し稼動させましたが、リーマンショック後の円高により輸出ができなくなったことと、競合となる液晶方式のテレビのコストダウンが劇的に進んだことにより、販売価格が下がって採算割れを起こし、再び業績が悪化し、その後津賀社長に再びの改革を託す事となりました。
日産自動車の場合には、ルノー・日産・三菱グループで販売台数世界一を目指し、積極投資を行い、2018年には3社グループで世界販売台数1位を達成しました。
ただ、達成直前の2018年11月にカルロス・ゴーンが金融商品取引法違反容疑で逮捕され、その後ブランドイメージが低下したことと合わせ、それ以前の極端な高い目標を達成するための無理な販売活動の反動で販売台数が減少し、2019年度は、リストラ費用を含め、カルロス・ゴーン就任時以来の再び大幅な赤字となりました。
いずれも、改革が必要となるような会社は、一度の改革では済まないことが分かります。
■小さな組織にも応用可能
今回、他人の考えや行動を改めさせる、変革のための行動を引き出すためのストーリーテリングを、企業レベルの事例でご紹介しましたが、規模は違っても、小さなグループ、組織についても基本は同じで、変革の8ステップや危機意識の語りは応用可能です。皆さん、自分が置かれた状況にあてはめて、使ってみてください。
最初のステップとしては、危機意識の語りとなりますが、これを行って、聞き手がピリッとしたかどうか、シーンと波を打ったように静まり返るかどうかで、刺さるストーリーテリングができたかどうかが確認できます。
ぶっつけ本番でうまくいくかどうか不安な場合は、予め親しい人に自分の危機意識の語りを聞いてもらって、やばさ加減が伝わるか、危機からの脱出の出口が分かるか等の確認を取っておくとよいでしょう。私の指導経験では、一発でうまく語れる人の割合は1割程度です。
井口 嘉則
オフィス井口 代表
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