(※写真はイメージです/PIXTA)

この春、若手社員を対象とした賃上げに踏み切る企業が相次いでいます。久々に聞く「いい話」ではありますが、一方、そんなムーブメントからあからさまに取り残されているのが、中小企業の「ある世代」の方々のようです。実情を見ていきます。

中小企業の賃金、上昇傾向へ

世界的な情勢不安による物価上昇に苦しむ中、この春は賃上げのニュースが相次ぎ、心が軽くなる思いの方々も多いのではないかと思います。

 

2023年2月27日の日本政策金融公庫のニュースリリース『「中小企業の雇用・賃金に関する調査」結果~「全国中小企業動向調査・中小企業編」 2022年10-12月期特別調査~』によると、

 

●2022年12月の正社員の給与水準をみると、「上昇」と回答した企業割合は53.1%と、2021年実績(41.1%)から12.0ポイント上昇

 

●業種別にみると、情報通信業(63.8%)、水運業(58.5%)、建設業(55.1%)などで「上昇」の割合が高い

 

●2023年見通しをみると、「上昇」と回答した企業割合は53.3%

 

という状況となっています(図表1参照)。

 

出所:日本政策金融公庫
[図表1]正社員の給与水準 出所:日本政策金融公庫、『「中小企業の雇用・賃金に関する調査」結果~「全国中小企業動向調査・中小企業編」 2022年10-12月期特別調査~』

 

また、2022年実績において、正社員の給与水準が「上昇」と回答した企業に正社員の給与水準上昇の背景を尋ねたところによると、「自社の業績改善」をあげたところが27%と、2021年実績の35%より下がったものの、最多となりました(図表2参照)。

 

出所:
[図表2]正社員の給与水準上昇の背景 出所:日本政策金融公庫、『「中小企業の雇用・賃金に関する調査」結果~「全国中小企業動向調査・中小企業編」 2022年10-12月期特別調査~』

同じ大卒でも、大手企業と中小企業に「明らかな格差」

「ここ数年、大変な局面が続いたけれど、無事に乗り切れそうでよかった…」

 

ホッと胸をなでおろした中小企業のサラリーマン。しかし、ふと周囲の給与所得の話を聞くと、どうやら様子が違っているようです。

 

大卒サラリーマンの平均給与(所定内給与額)ですが、中小企業(従業員30~99人/平均年齢43.9歳)の場合、月35.1万円、年収で531.4万円。一方の大企業(従業員1,000人以上/平均年齢41.5歳)は月43.2万円、年収で740.4万円。月に8万円ほどの差、年収で200万円もの差が生じています。

 

かつて同じ学び舎にいた学生でも、大企業に就職した人、中小企業に就職した人で、かなりの差が開いていくことになります。卒業したばかりの20代前半のときは、月1万円強と、そこまで大きい違いは感じなかったのかもしれません。

 

ところが、中小企業の従業員となったのち、大企業に就職した友人と比べ、自分の給与額の低さに気づくのは、それほど先のことではありません。

 

20代後半になれば、年収100万以上の差、40代では200万円以上の差、50代では300万円の差と、引き離されていきます。

 

●大卒サラリーマン「大企業と中小企業」の月収差

 

数値左:大企業(従業員規模1,000人以上企業)
数値左:中小企業(従業員規模30~99人企業)

 

20~24歳:23.8 万円 / 22.1 万円

25~29歳:28.5 万円 / 25.1 万円

30~34歳:34.6 万円 / 29.1 万円

35~39歳:40.2 万円 / 33.4 万円

40~44歳:45.6 万円 / 36.3 万円

45~49歳:50.0 万円 / 40.0 万円

50~54歳:56.7 万円 / 42.1 万円

55~59歳:56.8 万円 / 42.4 万円

 

●大卒サラリーマン「大企業と中小企業」の年収推移

 

数値左:大企業(従業員規模1,000人以上企業)
数値左:中小企業(従業員規模30~99人企業)

 

20~24歳:359.4 万円 / 309.9 万円

25~29歳:498.6 万円 / 378.8 万円

30~34歳:606.7 万円 / 450.1 万円

35~39歳:714.6 万円 / 518.9 万円

40~44歳:792.8 万円 / 564.6 万円

45~49歳:853.6 万円 / 607.5 万円

50~54歳:971.2 万円 / 641.1 万円

55~59歳:962.5 万円 / 627.1 万円


出所:厚生労働省『令和3年賃金構造基本統計調査』より算出

 

賃上げの喜びもつかの間、大企業と中小企業に見られる、埋められない「給与差」。

 

バブル崩壊以後、サラリーマンの給与事情は非常に厳しいものでした。2006年、大卒サラリーマンの月収(所定内給与額)の中央値は36万3,700円。そして2021年は33万5,600円。サラリーマンのちょうど真ん中の給与は、15年で2万8,000円も減少してしまいます(『賃金構造統計調査』より)。

 

さらに、給与の中央値の推移を年齢別に見ると、最も割を食った世代がみえてきます。

 

給与中央値は、この15年で20代前半は1.2万円、20代後半は6,000円ほどアップ。おそらくこれは、初任給の上昇によるものでしょう。ところが、30代に入ると減少基調に。30代では1.1万円、30代後半で4.3万円ダウン。そして現役世代で最大となるのが40代前半で7.2万円ダウン。そして40代後半は6.5万円ダウン。氷河期世代の40代が「最も厳しい状況」に置かれているといえます。

 

さらに40代前半の下位10%と上位10%の給与差を比較すると、2006年には25万円程度だった差は、2021年位は33.5万円もの差に。最も気の毒な世代である40代ですが、この15年を見ると「勝ち組」と「負け組」の差がさらに明確になったといえます。

 

今回、若年層をメインに賃金を引き上げようとする企業が多くあるものの、中間層以上の就労者にはベースアップという温かい配慮ではなく、「実力主義」「自己責任」を掲げ、厳しく臨む企業姿勢が透けて見えるようです。

 

とくに氷河期世代は、新卒時代に苦しんだ挙句、賃上げも対象外という割を食った状態に…。40代の中堅社員は「心を無にするしかない」状況ではないでしょうか。

 

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