「同性婚合法化」のきっかけは「映画の力」だった!『ブロークバック・マウンテン』が人々に突きつけた「切実な問い」とは

「同性婚合法化」のきっかけは「映画の力」だった!『ブロークバック・マウンテン』が人々に突きつけた「切実な問い」とは
(※写真はイメージです/PIXTA)

アメリカでは「同性婚」について、2015年に連邦最高裁判決で「基本的人権」として認められ、2022年に連邦レベルで法制化されました。実は、同性婚を許容する土壌は2000年代から醸成されてきており、その背景には「ある映画の力」がありました。NHKエンタープライズ エグゼクティブプロデューサーの丸山俊一氏が著書『アメリカ 流転の1950ー2010s 映画から読む超大国の欲望』(祥伝社)より解説します。

「時代遅れの社会的慣習」がテーマとなった背景

アン・リーが台湾人であるというのも面白いところです。

 

彼は台湾時代に『恋人たちの食卓』(1994)という映画を撮っていて、それは儒教の美徳である「孝」という価値観に対する批判でもありました。

 

台湾では、(姉妹の中で)一番最後まで嫁に行き遅れた娘は結婚せずに、独身のままで親の面倒を見なければならないという、実に特殊な慣習があり、彼は映画の中でそれを批判的に取り上げました。

 

時代遅れの社会的慣習が人々の人生に大きな影響を及ぼしているという点で、2つの映画は共通しています。

 

ハリウッドがアン・リーのような外国人監督を招き入れ、「アメリカ映画」の制作へと取り込む能力は、意図しているかどうかを問わず、アメリカ文化の持つパワーの一部であると思うのです。

 

また、あの映画が保守派を動揺させたのには、美学的な側面があります。

 

アン・リーはカウボーイを主人公に選びました。カウボーイは、伝統的にアメリカの「男らしさ」のシンボルです。その一方で、彼は西部の荒野を社会的慣習からの解放として描いてもいるのです。

 

主人公の2人は、社会の中では同性愛に対する不寛容という抑圧を受けます。そこから逃れられるのは、ブロークバック・マウンテンの自然しかありません。

 

だから彼らは一緒にキャンプや釣りに出かけるのです。ワイオミングというアメリカの大自然を、山脈や美しく開けた土地や景色などによって、社会的な慣習や抑圧からの解放、つまりリベラルな価値観と一致するように再解釈しているのです。

 

そのことは保守派の人たちを憤慨させました。なぜなら、ワイオミング州の風景、牧場、カウボーイなどは、保守派が伝統的に自分たちのものだと感じていたものだからです。

 

その象徴を、彼はリベラルな主張として完全に変容させてしまった。だからこそ、この映画は破壊的なまでのインパクトを与えたのです。

 

アメリカの保守派は、同性婚の議論に勝てると思っていたのに、結局はその議論に負けました。そして、保守派の解釈では、彼らが論破されたのは、水面下で文化が変化したからでした。

 

保守派が近年になって文化戦争を激化させている理由の一つは、リベラル派にハリウッドを支配させたのは間違いだったと考え始めているからなのです。

次ページ映画を通して同性婚の論争に勝利したリベラル
アメリカ 流転の1950ー2010s 映画から読む超大国の欲望

アメリカ 流転の1950ー2010s 映画から読む超大国の欲望

丸山 俊一

祥伝社

欲望の正体を求めて。想像力の旅が始まる。 NHK「世界サブカルチャー史 欲望の系譜」アメリカ編を 完全書籍化 番組では放送されなかったインタビューも収録 理想、喪失、そして分断 アメリカはどこへ行こうとしているの…

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