「数学は才能」は先入観!?
「歴史や生物は暗記が多いので覚えればどうにかなるけれど、数学は考えなくてはいけない。だから、才能がないと難しい」と言う人が、依然として多く存在します。ただそれも先入観によるもので、私は数学も暗記科目だと捉えています。解き方を暗記するという方法で、ほとんどの問題は解けるからです。
入試では大抵どこかで見たような類似問題が出されます。ですから、覚えた解法を使い、多少応用を加えるだけでほとんどの大学は突破できます。
東大の数学のようにまったく見たことのない問題が出題される場合は、様々な解き方を試みる必要がありますが、それも結局、Aという解き方で少し進んだら次はB、Bの解き方で少し進んだら次はCと、覚えた解法をいくつも組み合わせてひとつずつ解き進んでいく、という作業に終着します。
前回お話したエスカランテ先生が生徒たちに教えた教科が「数学」であったという点は、「数学は才能だ」と断固として信じる人たちにとっては刮目すべき事実です。彼は、小学生レベルの学力しかなかった学生を、全米トップレベルまで引き上げました。それも、特別な才能をもった生徒ひとりではなく、学校中の落ちこぼれの生徒たち全員を、です。
「向き合う態度」で難問は解ける!?
また、数学教育学を学ぶ人なら誰もが知っている、アラン・シェーンフェルド教授という数学者がいます。大学の授業で彼はまず、生徒たちが入学する以前に身につけた「数学に取り組むときの習慣」をすべて捨てさせるそうです。そして、自分自身が解けない問題を「2週間考えてきなさい」と言って宿題にします。もしわからなくても、2週間毎日考えるようにと注文をつけます。
「数学は能力ではなく、向き合う態度で決まる」というのが彼の信条なのだそうです。数学を「能力がなければ解けない」「ひらめきが大事」というメンタルセットで取り組んでいたら、難しい問題にあたったとき「この問題は自分には無理だ」と諦めてしまい、そこが限界となります。
シェーンフェルド教授は、問題を解くためには粘り強き、忍耐が必要だと主張しています。実際、彼の出す宿題を2週間毎日繰り返すことにより、生徒たちの数学の能力はかなりアップするそうです。
東大入試の数学でも、理系は2時間半も与えられるのに出題されるのはたったの6問。それでも全部解くには時間が足りないという点では、シェーンフェルド教授の「忍耐力をつける」教育方針と似ていると言えます。
東大の数学対策として、私は「新数学スタンダード演習』という見たことがない問題ばかりが載っている本を使い、時間がかかってもいいので1日3問解くように勉強していました。たった3問ですが、2時間以上かかることもザラで、わからなくてもひたすらどうやって解くかを考えました。
こうしてとことん思索し続けたおかげで、私は東大入試の数学が解けるようになったのです。