プレーの再現性を高めるため自らをマシン化したデシャンボー
私はデシャンボーがどのような取り組みをしているのかに興味がわき、彼の技術を支えるブレーンたちと交流を深めてきました。
デシャンボーは12歳から大学進学までの間、現在も指導を受けるスイングコーチのマイク・シャイと毎週約30時間を共に過ごしていたそうです。デシャンボーは欧米のゴルフコーチでも理解するのが困難と言われるスイング理論書『ゴルフィング・マシン(TheGolfingMachine)』を読み込み、毎日シャイと議論を交わしていました。
1969年にボーイングのエンジニアだったホーマー・ケリーが著した同書の副題は「幾何学的なゴルフ〜コンピューター時代の完全なるゴルフ」です。シャイはゴルフィング・マシン理論とともに、次のようにゴルフに取り組むうえで重要な哲学も植え付けました。
「ブライソンには自分の頭で考え、物事を判断する重要性を伝えてきた。例えば、結果が良いから良いスイングなのか、それとも理想的なスイングをした結果、良い結果が出たのか、という具合にね」
高度なスイング理論と、常に物事の本質をとらえる考え方はマイク・シャイからの教えだったのです。
パッティングに関しては、デシャンボーが使用するパターブランドSIKゴルフのステファン・ハリソンがフィッター兼コーチとして指導をしています。
測定機器を使用し、ミリ単位でパターの入射角や軌道をチェックし、毎回同じボールの転がりになるようにパッティングストロークを調整するほどの徹底ぶりです。パターもグリーンの速さによってロフトや重さを調整しています。パッティングの距離感は、振り幅によってボールが何メートル転がるかを細かくチェックし、データに基づいた独自の計算を行って振り幅の数値を算出しています。
実際に私もハリソンの指導を受けましたが、自分の感覚と数値のズレがあり驚きました。デシャンボーは徹底的に感覚を排除し、自らをマシン化することで再現性を高めているからこそ、プレッシャーのかかるなかで難コースを制することができたのでしょう。
このような、科学や理論を前提としたデシャンボーの取り組みは、練習や経験で技術を磨いてきたゴルファーにはなかなか理解できないかもしれません。
あるトーナメントの練習グリーンで、ベテランのパット・ペレツ(米国)がデシャンボーの取り組みについて話を聞いていましたが、終始理解できないという表情を浮かべ、最終的には「クレイジーだ。そんなこと考えていたらプレーできない」と言い残して去っていきました。
ペレツの反応は当然のことだと思います。もはや、デシャンボーの取り組みや考え方は物理やバイオメカニクス(生体力学)などの学問レベルのため、理解できないのは無理もないからです。
しかしながら、最先端のゴルフティーチングを理解していれば、デシャンボーの取り組みは実に理にかなっていることがわかります。デシャンボーは欧米の大学研究者やトップゴルフコーチ並みの知識を持っているからこそ、異端児と言われるような取り組みができるのです。
吉田 洋一郎
ゴルフスイングコンサルタント