相続手続き、銀行の「残高証明書」が必要なワケ
生徒:先日、私の母が他界しました。いまから私が相続手続きをするつもりで、いろいろ調べています。ひとつ質問させてください。銀行預金や郵便貯金を相続するときに、先に「残高証明書」を取得しておくべきだと聞いたんですが、なぜですか? 母の手元にあった通帳を見れば、残高はわかりますよね…?
先生:確かにそうですね、通帳をすべて保管してあったなら、それでいいかもしれませんよね。でも、通帳を失くしている可能性もありますよ。だから、亡くなった方の全財産を漏れなく把握するためには、一度、銀行残高証明書を取得したほうがいいのです。相続人の方々が知らない口座があるかもしれませんし、それに、預貯金以外にも、借入金など通帳だけでは把握しきれないものがあるかもしれないですからね。
生徒:残高証明書を見れば、すべてわかるのですか?
先生:そうです。残高証明書とは、取引されていた口座の各残高を書面で証明するものです。すべて記載されていますよ。
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【相続】相続時に残高証明書の取得する理由と預貯金の仮払い制度とは?
金融機関の残高証明書、どうやって取得する?
生徒:残高証明書は、どうやって手に入れるのでしょう?
先生:各金融機関に申請すれば、発行してもらえますよ!
生徒:申請するときに必要なものは何でしょう?
先生:金融機関によって多少違いはあるかもしれませんが、亡くなった方の戸籍謄本または除籍謄本、相続人の戸籍謄本、申請する方の本人確認書類、実印と印鑑登録証明書などですね。発行手数料がかかりますが、これも金融機関によって金額はさまざまです。
生徒:そうなんですね。普通預金だけでなく、定期預金の残高もわかりますか?
先生:定期預金の残高も記載されますよ。
生徒:なら安心ですね!
相続財産としての「既経過利息」って?
先生:ただし、定期預金には注意点があります。通常は「既経過利息」の金額が記載されていないから、それを記入してもらうように依頼することです。金融機関によっては、残高証明書とは別に「既経過利息計算書」というものを発行してくることもあります。
生徒:既経過利息とはどんなものですか?
先生:既経過利息とは、預金を相続開始日で解約したときに支払われる利息のことです。残高証明書に記載してもらう残高の日付は「相続開始日」であって、残高証明書の申請日ではないので、そこも注意が必要ですよ。よくある間違いです。
生徒:なるほど。既経過利息というのは、未収になっている利子所得のことですね。
先生:所得税のことをよくわかっていますね! ただし、預金利息を受け取るときには、20.315%の税率を乗じて算出した所得税と住民税が源泉徴収されるから、源泉徴収額を控除した金額が、相続財産ということになります。
相続時、銀行口座の所在を探す方法は?
生徒:預貯金を相続するのに、残高証明書が必要なことはわかりました。もし、通帳を失くしていた場合はどうなりますか? どこに金融機関に口座を持っているかわからないときは、どうすればいいのですか?
先生:亡くなった方が遺言書を書いていれば、どこの金融機関と取引していたかすべてわかりますが、遺言書がない場合は、相続人が自分で調べなければいけません。
生徒:どうやって調べるのでしょう?
先生:まずは、家の中を洗いざらい探し回って、通帳やキャッシュカード、利用明細書がないか探すことです。金融機関の社名が書かれたカレンダーや、広告宣伝の郵便物が残されていたら、その金融機関に口座が存在している可能性があると考えるべきでしょう。
生徒:えっ…。それは大変ですね。家中ひっくり返して、手がかりを探さないといけないということですね…。インターネット専用銀行の場合は、どうすればいいのでしょう?
先生:ネット銀行の場合、電子メールやスマートフォンの銀行アプリを確認するか、郵便物を確認するしかありません。
相続発生で「預金口座は凍結される」というのは本当?
生徒:そういえば、相続が発生したことを金融機関に伝えると、そこの預貯金は凍結されて引出不能になるって聞いたことがあるんですけど本当ですか?
先生:その通りですよ。お母様が亡くなったことを金融機関に知らせると、お母様の口座は凍結されます。すると、出金だけでなく入金も含め、取引が一切できなくなります。
生徒:なぜ凍結されるのですか?
先生:預貯金を相続財産として保全するためです。預貯金は相続人全員で遺産分割しなければいけないので、遺産分割が確定するまで、相続人のうち誰のものになるか決まっていない状態にあるからですね。
生徒:なるほど…。では、遺産分割が確定すれば、自動的に名義変更されるんですか?
先生:いいえ、名義変更の手続きは必要です。ただし、きちんと手続きが完了すれば、相続人の名義の口座になりますよ。その口座で今後取引するつもりがなければ、解約して払い戻しすればいいでしょう。
生徒:そうなんですね。でも、葬儀や火葬の費用、未払いの医療費の支払いなど、たくさんお金が必要で…。なんとか亡き母の口座からお金を引き出す方法はないでしょうか?
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葬祭費用等を賄うための「預貯金の払い戻し制度」
先生:実は、一部のお金だけは先に引き出すことができるんです。これは「預貯金の払戻し制度」といって、法定相続人であれば、単独で払い出しすることが可能です。ただし、預貯金残高の3分の1に法定相続分をかけた金額が引き出しできる上限となります。それでも、1つの金融機関から引き出せるのは最大150万円までですが。
生徒:それは助かりますね! 母親の場合、〇〇銀行の普通預金残高が1,200万円ありました。この場合、私が単独で引き出しできる金額はいくらでしょうか? ちなみに、私の法定相続分は2分の1です。
先生:1,200万円の残高に3分の1をかけると400万円ですね。それにあなたの法定相続分2分の1をかけると200万円になります。ただし、1つの金融機関から引き出せるのは最大150万円なので、この場合の引き出し可能な金額は150万円です。
生徒:その場合、〇〇銀行へ提出すべき必要書類はなんでしょうか?
先生:先にものお話した通り、お母様の出生から死亡まで連続した戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本、あなたの実印と印鑑証明書が必要です。事前に銀行に問い合わせておくと安心ですよ。
生徒:わかりました。ありがとうございます。
岸田 康雄
国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士
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