今回は、民事信託にはどんな税金が課せられるのかを見ていきます。※本連載は、税理士・公認会計士の成田一正氏監修、一般社団法人民事信託活用支援機構理事長の髙橋倫彦氏、同機構理事の石脇俊司執筆の『『危ない』民事信託の見分け方』(日本法令)の中から一部を抜粋し、資産家の相続対策、資産および事業承継対策としての活用が期待される民事信託について、その特徴や問題点、起こりうるトラブルへの対処法を見ていきます。

調査官は重加算税をかけたがる
税務調査を録音することはできるか?
5/19(日)>>>WEBセミナー

信託の課税方法は、信託の種類によって異なる

信託の課税方法は、信託の種類により異なります。信託の種類は、税制上、「受益者等課税信託」「集団投資信託」「法人課税信託」「退職年金等信託」「特定公益信託」の5種類に分かれます。

 

このうち、受益者等課税信託とは、他の4種類の信託以外の信託をいい、民事信託のような自由設計の家族のための信託は、原則は、受益者等課税信託になりますが、例外として、法人課税信託になる場合もあります。

 

法人課税信託になる場合は、受益者等が存しない信託等の一定の場合に限られます。信託の納税義務者は、受益者等課税信託では受益者になりますが、法人課税信託では受託者になります。

 

\「民事信託の活用」「事業承継」正しく進める方法とは?/
  基礎編・事例編・実務編etc.…毎月セミナー開催!

 

(1)民事信託の課税の基本

 

受益者等課税信託においては、直接税は、法形式よりも経済的実質に着目して課税されます。この考え方を導管論といいます。

 

信託の課税の時期は、信託設定時、信託収益発生時、信託受益権の取得時、および信託終了による信託財産分配時に分かれます。

 

信託設定時または信託受益権の取得時に課税された場合は、原則として、信託終了時には課税されません。信託の相続税または贈与税の課税の時期が、設定時か、給付時か、相続発生時または贈与時かは、信託契約の内容によります。

 

信託の利益と費用の帰属者は誰か、所得税、資産税は誰に申告義務があるかは、信託契約や信託財産の状況により異なります。民事信託であっても税務の取扱いには特段の注意が必要であり、税理士、公認会計士等の専門家に相談することが望ましいでしょう。

相続・贈与で得た受益権は、相続税、贈与税の対象に

①相続税または贈与税の課税

相続・贈与による受益権の取得は、適正な対価を負担していませんので、相続・贈与税の課税対象になります。

 

委託者以外の者が受益権を取得した場合は、実体法にとらわれずにその経済的実質を見ると、委託者または前の受益者等から受益権が相続・贈与されていますので、相続税法第1章第3節に「信託に関する特例」を設けて、このような場合を相続・贈与による取得とみなしています。受益権を取得した受益者が、受益者としての権利を現に有する者または特定委託者の場合は、相続税または贈与税が課税されます(相続税法第9条の2第1項)。

 

この権利を現に有する者には、残余財産受益者(信託法第182条第1項第1号)は含まれますが、受益権に停止条件または効力発生の始期が付されている場合、受益者がまだ存在(生誕)しない場合、または特定されていない場合の受益者は含まれません(相続税基本通達9の2-1)。

 

そこで、受益権に停止条件または効力発生の始期を付すことで、受益者のニーズに合わせて信託給付を行うことができますし、また、そうすることにより、受益権の課税時期を調整することができます。

 

なお、特定委託者とは、信託の変更権限を有し、かつその信託の終了時に受益者へ分配した後になお残存する信託財産を帰属させる者(帰属権利者)をいいます。変更権限を有する者とは、例えば、事業承継を目的とする持ち株信託等において、後継者指名権を有する者です。帰属権利者とは、残余財産受益者ではありません。特定委託者は受益者ではありませんが、受益者とみなして課税されますので注意が必要です(相続税法9条の2第5項、同条第1項、相続税基本通達9-2-2)。

 

特定委託者の定義は、所得税法における「みなし受益者」の定義と同様です。特定委託者は委託者を念頭に置いていますが、委託者以外の者もこれに該当する場合があります。

受益者等課税信託では信託財産を受益者の保有とみなす

②所得税の課税

相続、遺贈または個人からの贈与により財産を取得する場合、その財産に対しては所得税を課されません(所得税法第9条第16号)が、このように取得した財産から発生する収益に対しては所得税が課税されます。

 

信託財産を構成する資産は受託者の所有であり、信託財産から発生する損益は法形式的には受託者に帰属しますが、受益者等課税信託の場合、税務的には信託財産を構成する資産は受益者の保有とみなされ、信託収益・費用は受益者に帰属するとみなされます(所得税法第13条第1項)。

 

民事信託は、原則は受益者等課税信託であり、信託財産から発生する収益は、受益者に帰属しますので、受益者が所得税の申告納税をする必要があります。信託財産に属する資産の譲渡による収益は譲渡所得になり、また、その資産が属する信託財産に対する権利の譲渡による所得も譲渡所得になります。

 

いずれの場合もその信託に関する受益者に帰属しますので、受益者が申告納税する必要があります。

 

なお、信託の変更をする権限を有し、かつその信託の信託財産の給付を受けることとされている者(受益者を除きます)は、受益者とみなされます(所得税法第13条第2項)。この「みなし受益者」の定義が、特定受益者と同じであることは前述の通りです。

 

また、受益者が存しない場合等においては、例外として、法人課税信託になり、受託者に法人税が課税されますので、受託者が申告納税する必要があります。

 

\「民事信託の活用」「事業承継」正しく進める方法とは?/
  基礎編・事例編・実務編etc.…毎月セミナー開催!

 

カメハメハ倶楽部セミナー・イベント

【4/16開催】相続人の頭を悩ませ続ける
「共有名義不動産」の出口は“売却”だけじゃない!
問題点と最新の解決策を藤宮浩氏が特別解説

 

【4/16開催】次世代のオルタナティブ投資
「プライベートクレジット投資」とは

 

【4/17開催】調査官は重加算税をかけたがる
相続税の「税務調査」の実態と対処方法

 

【4/19開催】良い案件を見つける3つの方策とは?
「日本型オペレーティングリース」投資の基礎講座

 

【4/20開催】「相続手続き」完全マスター講座
~相続人調査、財産調査、遺産分割協議~

本連載は、2016年4月1日刊行の書籍『『危ない』民事信託の見分け方』から抜粋したものです。その後の法改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「危ない」民事信託の見分け方

「危ない」民事信託の見分け方

成田 一正 監修 髙橋 倫彦、石脇 俊司 著

日本法令

民事信託は、相続対策、資産および事業承継対策として、今後大いにその活用が期待されている。 一方、民事信託は当事者が家族や身内の者になる信託であるため、受託者の業務が安易に流れ、信託法が定める忠実義務や分別管理義…

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録